写真は下関駅。
カンファレンスで質問があり、「皮膚生検の適応 特に炎症性皮膚疾患について」についてまとめた。
まとめ
炎症性皮膚疾患に限らず、あらゆる生検組織において病理診断がより確定的な役割を担う点は、優れた臨床診断に基づく適切な生検手技である。病理診断は臨床診断に依存する。
皮膚生検の適応 特に炎症性皮膚疾患について
生検すべき皮膚病変とそうでない皮膚病変
皮膚科領域では,以下の2つに対して皮膚生検の適応がある。
皮膚腫瘍
皮膚炎症性疾患
腫瘍は割愛し、以下、皮膚の炎症性病変(皮疹)の生検について述べる。
生検の意義が大きい皮膚病変とは,生検により特徴的な所見が得られ,確定診断に直結するものである。臨床医(特に皮膚科医)は肉眼診察と皮膚病理の所見を常に対比しながら経験を積むため,皮疹をみればどのような病理所見か,おおよその見当をつけることができる。いかに適切な臨床診断が行われるかに左右される。
一般臨床医はこの肉眼所見と皮膚病理診断の鑑別が難しい。しかし以下の病変に対して生検を行えば診断的意義が高い。
①生検が診断に結びつくと考えられる皮疹
水疱:天疱瘡,類天疱瘡など。
紫斑:IgA 血管炎,アミロイドーシス,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症など。
紅斑:Sweet 病,結節性紅斑,サルコイドーシス,乾癬,ある一部の特定の膠原病(強皮症などは皮膚病変を来しやすい),移植片対宿主病(GVHD), 菌状息肉症の紅斑期,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症など。
潰瘍:血管炎,コレステロール塞栓症, 壊疽性膿皮症。 結節:悪性リンパ腫,深在性真菌症,非定型抗酸菌症,皮膚結核(皮膚腺病など),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症,悪性腫瘍の皮膚転移。
疑われる臨床診断があり,かつそれに合致する皮膚病変がある場合に,皮膚生検から確定診断に至る可能性が高い。
例外的に,皮疹のない正常皮膚からの皮膚生検が診断に有用な例として,血管内リンパ腫, 全身性エリテマトーデス(SLE)等が挙げられる。血管内リンパ腫では皮膚深層の血管にリン パ腫細胞がみられ,SLEではループスバンドテスト(蛍光抗体法)にて,IgG(緑色蛍光)が表皮基底膜に線状に沈着する 特徴的な所見が得られる。
②皮膚生検所見が非特異的な所見にとどまるもの
Still病,薬疹,ウイルス疹,細菌感染症(毒素性ショック症候群含む),多くの膠原病,蕁麻疹,Gibert ばら色粃糠疹。
非特異的な所見(真皮の血管周囲への炎症細胞浸潤)にとどまっても,診断目的ではなく,病勢を知るため,他疾患と鑑別するため,難病申請などの書類の項目を埋めるため,といった理由で生検が必要となる場合もあるため,生検は常に不要というわけではない。
③皮膚生検の意義が小さい病変
生検の意義が小さくなるのは,最盛期を過ぎているとき,潰瘍化しているとき,細菌感染を起こしているとき,ステロイド軟膏がすでに塗布されているなど皮疹が修飾されているとき,正常皮膚のとき(IVL やループスバンドテストをしたいときを除く),鑑別疾患が想定されていないとき,そして外観やその他の検査で診断が可能なとき,である1)。例えば黄色腫や帯状疱疹,うっ滞性皮膚炎などは,通常,臨床診断が可能であり,皮膚生検の適応とは言えない。すべての生検は侵襲的であるため,皮膚生検を目的にコンサルトされても,意義が低いと判断される場合,依頼医にその旨を伝え,施行しないこともある。
図1 天疱瘡(尋常性天疱瘡):水疱の直下には表皮基底層が残存しており、表皮内水胞を認める。水疱性類天疱瘡のような好酸球浸潤はない。
図2 IgA 血管炎(病理学的には白血球破砕性血管炎). 表皮下の真皮表層の小さな血管周囲に好中球による炎症細胞浸潤を認める。これら好中球の核崩壊による核塵(核の破砕物)を認める。
図3 Sweet 病. 表皮下の真皮内の好中球の著明な浸潤を認める。
図4 血管内リンパ腫. 表皮下の真皮内の血管内に異常リンパ球の浸潤を認める。
参考文献
江原 瑞枝. 皮膚生検—皮膚科医の視点からみた皮膚生検の判断基準. Hospitalist. 2020. 8(3).558-562.
病理学会コア画像 こちら。
病理検査の玉手箱 こちら。
皮膚白血球破砕性血管炎 こちら。
血管内リンパ腫 感染症の病理学的考え方 こちら。
冒頭の写真は下関駅、JR西日本の電車。ユキサキNAVI こちら。
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