NHKで放送されているDOC あすへのカルテ。紹介はこちら
同番組の主人公(元医師)は、嚢胞性線維症をその患者の汗を舐めて、診断していた。
未診断の嚢胞性線維症の患者が、意識消失発作。原因は電解質異常。咳、痰があり、異常な発汗がある。主人公は、患者の異常な汗を「舐めて」嚢胞性線維症を診断するシーンがあった。
番組の紹介
ミラノのアンブロシアーノ総合病院の内科医長アンドレア・ファンティは誰もが認める優秀な医師で、多忙な日々を送っていた。患者にも同僚にも厳しく接し、疎まれてもいた。
そんなアンドレアに悲劇が訪れる。医療ミスで息子が亡くなったと信じる男性に銃で頭を撃たれたのだ。一命をとりとめ意識を取り戻したアンドレアだが、過去12年間の記憶を失っていた…。友人で精神神経科医のエンリコは記憶を取り戻させるため、アンドレアを長年勤務していた内科に入院させる。アンドレアの恋人の内科医ジュリアは担当医に名乗りを上げる。
医師として、一人の人間として、アンドレアは人生を再生することができるのか…?
イタリアの医師で作家のPierdante Piccioniの実話をもとにした小説に着想を得て制作されたドラマ。イタリアで過去13年間に放送されたテレビシリーズの中でNo.1の視聴数を獲得した。
第1シーズンは2020年3月26日から11月19日まで放送、第2シーズンは2022年1月13日から2022年3月17日まで放送された。現在、第3シーズンが制作中である。
現在、NHKで第1シーズンが2022年10月9日より、NHK総合の海外ドラマ枠(毎週日曜日23時台)で、その第1シーズンが放送されている。
日本では少ない嚢胞性線維症とはどのような病気か。
嚢胞性線維症とは:難病情報センター:こちら。
1.概要
嚢胞性線維症(膵囊胞線維症cystic fibrosis:CF)は、cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)を原因分子とする全身性の疾患である。気道内液、腸管内液、膵液など全身の分泌液/粘液が著しく粘稠となり、管腔が閉塞し感染し易くなる。典型例では、胎便性イレウスを起こし、膵臓が萎縮して膵外分泌不全による消化吸収不良を来たし、呼吸器感染を繰り返して呼吸不全となる。汗中の塩化物イオン濃度の高値は特徴的な所見であり、診断に用いられる。
嚢胞性線維症:こちら
嚢胞性線維症を発症すると、気管支は拡張し、壁は肥厚、粘液が産生され気管支を閉塞させる。痰には血痰が出現することがあり、合併症として細菌感染(特に緑膿菌感染)が起こる。
嚢胞性線維症の肺肉眼像。Humpath.com こちら
組織像:肺組織内の気管支は拡張し、粘液と炎症物質を容れている。拡張した気管支周囲にも慢性炎症(リンパ濾胞形成)が散在性に存在する。
2.原因
CFTR遺伝子の変異を原因とする。CFTRタンパクは全身の管腔臓器の主要な陰イオンチャネルである。CFでは、CFTRの機能低下により、気道、腸管、膵管、胆管、汗管、輸精管の上皮膜/粘膜を介するクロライド(塩化物イオン)と水の輸送が障害される。そのため、管腔内の粘液/分泌液が過度に粘稠となり、管腔が閉塞し感染し易くなり、多臓器の障害を来す。これまでに報告された遺伝子変異は1,900種類を超え、人種や国により多様である。同じ遺伝子変異を持つ患者でも、障害される臓器及び重症度が異なり、病態形成の機序には不明な部分が多い。
3.症状
1)典型的な症例では、生直後にしばしば胎便性イレウスを起こす。その後、膵外分泌不全による消化吸収不良を来たし、気道感染症を繰り返して呼吸不全となる。汗腺の塩化物イオンの再吸収が障害されるため、汗の塩分濃度が高くなる。障害される臓器と重症度は様々であるが、単一臓器のみが障害される患者もいる。
2)胎便性イレウスは、国内のCF患者の40~50%に見られる。粘稠度の高い粘液のために胎便の排泄が妨げられ、回腸末端部で通過障害が生じる。
3)呼吸器症状は、ほぼ全例のCF患者に見られる。出生後、細気管支に粘稠度の高い粘液が貯留し、病原細菌が定着すると細気管支炎や気管支炎を繰り返し、呼吸不全となる。膿性痰の喀出、咳嗽、呼吸困難を来す。ムコイド型緑膿菌の持続感染が特徴である。
4)膵外分泌不全は、CF患者の80~85%に見られる。タンパク濃度の高い酸性の分泌液で小膵管が閉塞し、次第に膵実質が脱落する。変化は胎内で始まり、典型的な症例では2歳頃に膵外分泌不全の状態になり、脂肪便、栄養不良、低体重を来す。画像所見は、膵の萎縮あるいは脂肪置換を呈することが多い。
5)胆汁うっ滞型肝硬変が、国内のCF患者の20~25%に見られる。
4.治療法
現在、根本的な治療法は無く、呼吸器感染症と栄養状態のコントロールが中心となる。肺移植や肝移植が必要となる場合が多い。
疫学
小児慢性特定疾病情報センター:こちら
本疾患は白人に多いが、日本人ではきわめて稀な疾患である。全国疫学調査によると、1999年の調査では15名、2004年の調査では13名の患者が確認され、日本人における発症頻度は、1人/1870000人(1,870万人に1人)と推計されている。*日本では、出生約60万人に1人という記載もあり。
アジア人では稀だが、欧米では出生3,000人に1人が発症する頻度の高い疾患である。こちら
病因
嚢胞性線維症の原因であるCFTR遺伝子は、第7染色体上(7q31)に局在する。欧米の患者で最も頻度が高い変異は、508番目のフェニルアラニン残基1個が欠落するΔF508変異であり、全CF患者の約70%がこの変異によるものである。日本人ではΔF508変異は通常認められず、その他のCFTR遺伝子異常が散発性に認められる。常染色体劣性遺伝性疾患である=親から児に25%の確率で遺伝する。
CFTR遺伝子の変異によるCFTRタンパク・陰イオンチャネルの変化:こちら
CFTRはそれぞれ6つのTM(transmembrane)ドメインからなるMSD1(TM1~6)とMSD2(TM7~12),NBD1, NBD2, Rドメインから構成される.TM1~2, 3~4, 5~6, 7~8, 9~10, 11~12間はextracellular loop(ECL1~6)があり,ECL4には二つの糖鎖修飾部位が存在する.TM2~3, 4~5, 8~9, 10~11間はintracellular loop(ICL1-4)があり,NBD1/2と相互作用する.C末端にはPDZ結合モチーフ(PDZ-BM)が存在し,NHERF1-Ezrin複合体との結合を介した膜局在化や膜上安定化に寄与する.CF患者で多いCFTR変異(∆F508, G551D)はNBD1に存在する.
NBD二量体化によりMSDの陰イオン選択的ポアが開口すると,MSD間の電気的勾配を利用してCl−,HCO3−の細胞外への輸送が行われる.ABP2においてATPが加水分解されると二量体は解離し,ポア(開口部)が閉じることで再度閉口状態となる.
嚢胞性線維症患者の平均寿命は30年と言われる。
死因で最も多いのは気道感染、特に緑膿菌が原因となる。
Sankalp Malhotra, et al. Cystic Fibrosis and Pseudomonas aeruginosa: the Host-Microbe Interface. Clin Microbiol Rev. 2019 May 29;32(3):e00138-18. doi: 10.1128/CMR.00138-18. Print 2019 Jun 19. PMID: 31142499 こちら
In human pathophysiology, the clash between microbial infection and host immunity contributes to multiple diseases. Cystic fibrosis (CF) is a classical example of this phenomenon, wherein a dysfunctional, hyperinflammatory immune response combined with chronic pulmonary infections wreak havoc upon the airway, leading to a disease course of substantial morbidity and shortened life span. Pseudomonas aeruginosa is an opportunistic pathogen that commonly infects the CF lung, promoting an accelerated decline of pulmonary function. Importantly, P. aeruginosa exhibits significant resistance to innate immune effectors and to antibiotics, in part, by expressing specific virulence factors (e.g., antioxidants and exopolysaccharides) and by acquiring adaptive mutations during chronic infection. In an effort to review our current understanding of the host-pathogen interface driving CF pulmonary disease, we discuss (i) the progression of disease within the primitive CF lung, specifically focusing on the role of host versus bacterial factors; (ii) critical, neutrophil-derived innate immune effectors that are implicated in CF pulmonary disease, including reactive oxygen species (ROS) and antimicrobial peptides (e.g., LL-37); (iii) P. aeruginosa virulence factors and adaptive mutations that enable evasion of the host response; and (iv) ongoing work examining the distribution and colocalization of host and bacterial factors within distinct anatomical niches of the CF lung.
ヒトの病態生理において、微生物感染と宿主免疫のぶつかりは、多数の疾患の原因となる。嚢胞性線維症(CF)は、呼吸機能不全、炎症性免疫反応と慢性肺感染症が相まって、気道に障害を与え、高い罹患率と予後不良をもたらす。緑膿菌は、CFを発症した肺に高い頻度で感染し、肺機能の低下させる。緑膿菌は、特定の病原因子(抗酸化物質やエクソポリサッカライドなど)を発現し、慢性感染中に適応変異を獲得することにより、自然免疫エフェクターや抗生物質に対して大きな抵抗性を示す。
写真はヒツジ血液寒天培地上の緑膿菌。ムコイド(粘液状)のコロニー形成を認める。
コメント