
図1 ダプトマイシンの構造
ダプトマイシン(Daptomycin, DPT)はリポペプチド系の抗菌薬のひとつ。 ほとんどの抗菌薬が効かないMRSA感染による皮膚軟部組識感染や敗血症、感染性心内膜炎などの治療薬として利用される。

図2 ダプトマイシンの構造と基本的な特徴(舘田より引用)
概要
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の治療では,グリコペプチド系抗菌薬のバンコマイシン(VCM)が第1選択薬として使用される.近年MRSAに対するVCMの感受性が低下したMRSAに対してはVCMによる予後不良例(治療失敗例)が報告されている.
2011年より、日本で使用可能となった環状リポペプチド系のダプトマイシン(DAP)は,これまでの抗MRSA薬とは異なる作用機序(細胞膜障害による殺菌作用)をもつ薬剤であり、MRSAを含むグラム陽性球菌に対して優れた抗菌活性を示す.
ダプトマイシンの添付文書。こちら。
ダプトマイシンの構造
ダプトマイシンは,親水性の環状部分と疎水性の尾部からなる両親媒性の、環状リポペプチドの構造をとる。その抗菌活性の発現にはカルシウムの存在が不可欠であり,カルシウムの結合により尾部部分が細菌の細胞膜に結合しやすくなる。(図2)

ダプトマイシンの作用機序
ダプトマイシンは菌の細胞膜と結合し、速やかに膜電位を脱分極させる。また、ダプトマイシンにより、DNA、RNA及び蛋白質の合成阻害が生じる。これら膜電位の消失およびDNA、RNAおよび蛋白質の合成阻害により細菌が死滅する.
ダプトマイシンは、カルシウムとの結合により本剤の立体構造が変化し細菌の細胞膜に結合,14~16分子が細菌の細胞膜状でミセルを形成し膜に穴をあける.この細胞膜の障害により急速な膜電位の脱分極が生じ,菌体内のカリウムイオンが流出し蛋白・DNA・RNA合成が阻害されることにより菌は死滅する.ダプトマイシンは細菌の融解(菌体成分の散乱)を引き起こすことなく,菌としての原形をとどめたまま死滅させる.(殺菌作用によって死滅した菌体成分・毒素が拡散しない。)
ダプトマイシンの投与量と治療効果
- 適応症
MRSAを含む黄色ブドウ球菌による菌血症と感染性心内膜炎に対する治療成績も,欧米での無作為化試験によって,DAP 6 mg/kgの1日1回投与治療が標準的治療(VCMもしくはペニシリン)に対し非劣性(劣らない)であることが証明された.しかしこの検討においては,左心系の感染性心内膜炎に対する治療では非劣性であることが示されておらず,わが国においても左心系感染性心内膜炎に対しての使用は推奨されていない.しかし,最近,左心系心内膜炎でも有効であったとの報告や,DAPで治療された感染性心内膜炎378登録症例のうち,47%(182症例)は左心系の心内膜炎であったとの欧州からの報告もみられ,さらなる検討により適応が変更となる可能性がある.
- 投与量
左右の感染性心内膜炎の治療では、1回投与量を通常の6mg/kgから8mg/kg以上の使用での有効性と安全性の報告がある.
- DAPの使用で注意すべき点
DAPは肺胞領域に存在する肺サーファクタントと結合し、不活化される(末梢静脈から点滴注射すると右心系から肺循環を通過する際に不活化される)。よって,肺炎には適応をもたず単独で使用してはならない.DAPの投与方法はこれまで「24時間ごとに30分かけて点滴静注」とされていたが,2013年8月に静脈注射での使用も可能となった.
- ダプトマイシンの安全性と副作用
DAPの安全性は良好であり,腎機能の低下した患者の安全性も比較的高いと考えられている。
薬物相互作用・副作用
副作用として、CPKの上昇や骨格筋障害,横紋筋融解があり,DAP使用中は定期的にCPKのフォローをおこなう必要がある.
PKを上昇させるおそれがあるとして脂質代謝異常症に使用されるHMG-CoA還元酵素阻害薬については休薬も検討すべきとされている.その他、好酸球性肺炎の報告がある.DAP使用中には好酸球性肺炎の発症の可能性について注意する.

参考図 バンコマイシンの構造式および作用機序
*ダプトマイシンとバンコマイシンとの構造の違いを確認下さい。
バンコマイシンを含むグリコペプチド系薬は細菌の細胞壁の合成を阻害する抗菌薬である。細菌の細胞壁物質はペプチドグリカンで, 2種類の糖, N-アセチルムラミン酸(MurNAc)とN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の繰り返し結合による直列の鎖が, ペプチドで架橋されている構造をとっている。
細胞壁は糖鎖を縦糸とすると, ペプチドによる架橋を横糸に位置し、この縦糸と横糸が網目のような構造をしている。この細胞壁が合成される時, 最初に細胞質内で細胞壁前駆体(ムレインモノマー)が作られる。まず糖鎖の構成成分の基となるUDP-MurNAcにアミノ酸が順次結合し, 最終的に5個のアミノ酸によるペプチド鎖(ペンタペプチド)が付加され, さらにもう1つの糖であるGlcNAcが結合する。
グリコペプチド系薬はグラム陽性菌において,細胞壁前駆体ムレインモノマーのペプチド末端のD-Ala4-D-Ala5部分(細胞壁の横糸に相当)に特異的に結合する。そのためペニシリン結合蛋白(PBP)によるペプチド結合(架橋反応)が阻害され, 細胞壁合成が停止する。*より静菌的に作用する、とされる。
参考文献
ダプトマイシン. Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%97%E3%83%88%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%B3
ダプトマイシン. インタビューホーム. https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=6119402D1030
仲松正司. ダプトマイシン. 分子呼吸器病 18(1): 112-114, 2014.
舘田一博. Daptomycin開発の歴史とその特徴の概略. 臨床と微生物 39(3): 203-207, 2012.

冒頭の写真は網走オーロラ港の道の駅、流氷街道網走。こちら。
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