インターフェロン-γ遊離試験(IGRA)は活動性結核患者において、確定の指標とはなりえないので、その実施には注意を要する

内科・感染症
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最初に「結核」とは

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結核の定義

 結核菌群(Mycobacterium tuberculosis complex、ただしMycobacterium bovis BCGを除く)による感染症である。

臨床症状

 感染は主に気道を介した飛沫核感染による。感染源の大半は喀痰塗抹陽性の肺結核患者であるが、ときに培養のみ陽性の患者、まれに菌陰性の患者や肺外結核患者が感染源になることもある。

 感染後数週間から一生涯にわたり臨床的に発病の可能性があるが、発病するのは通常30%程度である。

 若い患者の場合、発病に先立つ数ヶ月~数年以内に結核患者と接触歴を有することがある。

 感染後の発病のリスクは感染後間もない時期(とくに1年以内)に高く、年齢的には乳幼児期、思春期に高い。

 また、特定の疾患(糖尿病、慢性腎不全、エイズ、じん肺等)を合併している者、胃切除の既往歴を持つ者、免疫抑制剤(副腎皮質ホルモン剤、YNFα阻害薬等)治療中の者等においても高くなる。

 多くの場合、最も一般的な侵入門戸である肺の病変として発症する(肺結核)が、肺外臓器にも起こりうる。

 肺外罹患臓器として多いのは胸膜、リンパ節、脊椎・その他の骨・関節、腎・尿路生殖器、中枢神経系、喉頭等であり、全身に播種した場合には粟粒結核となる。

 肺結核の症状は咳、喀痰、微熱が典型的とされており、胸痛、呼吸困難、血痰、全身倦怠感、食欲不振等を伴うこともあるが、初期には無症状のことも多い。 

結核菌の検体採取法

検査の目的

 抗酸菌症の臨床検査には微生物検査、病理検査、血清検査および遺伝子検査がある。なかでも微生物検査で抗酸菌を検出することは、それを診断する上で重要である。

届出基準 厚生労働省 

1)患者(確定例)

 医師は、臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から結核が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、結核患者と診断した場合には、法第12第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。

 ただし、病原体及び病原体遺伝子の検出検査方法以外による検査方法については、当該検査所見に加え、問診等により医師が結核患者であると診断するに足る判断がなされる場合に限り届出を行うものである。

 この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。

 鑑別を必要とする疾患は、他の原因による肺炎、非結核性抗酸菌症、肺癌、気管支拡張症、良性腫瘍等である。

2)無症状病原体保有者

 医師は、診察した者が臨床的特徴を呈していないが、次の表の画像検査方法以外の左欄に掲げる検査方法により、結核の無症状病原体保有者と診断し、かつ、結核医療を必要とすると認められる場合(潜在性結核感染症)に限り、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。

 この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。

 5歳未満の者においては、この検査方法で病原体保有の確認ができない場合であっても、患者の飛沫のかかる範囲での反復、継続した接触等の疫学的状況から感染に高度の蓋然性が認められる者に限り、届出を行うこと。 

3)疑似症患者

 医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から、結核の疑似症患者と診断するに足る高度の蓋然性が認められる場合には、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。

 疑似症患者の診断に当たっては、集団発生の状況、疫学的関連性なども考慮し判断する。

4)感染症死亡者の死体

 医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、結核が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、結核により死亡したと判断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。

 この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。

5)感染症死亡疑い者の死体

  医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、結核により死亡したと疑われる場合に は、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。

写真はチール・ニールセン染色。結核菌はフクシンにより赤く陽性となる桿菌として観察される。

各種検査による結核の診断法

検出方法の概要検出方法検体特異性
形態的診断方法塗抹検査による病原体の検出  喀痰、胃液、咽頭・喉頭ぬぐい液、気管支肺胞洗浄液、胸水、膿汁・分泌液、尿、便、脳脊髄液、組織材料  低い
培養分離・同定による病原体の検出高い(確定診断)
遺伝子学的方法核酸増幅法による病原体遺伝子の検出高い(確定診断)
病理形態的診断方法病理検査における特異的所見の確認  病理組織  低~中等度
宿主の免疫反応ツベルクリン反応検査皮膚所見(発赤、硬結、水疱、壊死の有無)低い
宿主の免疫反応リンパ球の菌特異蛋白刺激による放出インターフェロンγ試験血液低~中等度
画像画像検査における所見の確認胸部エックス線画像、CT等検査画像  低い

これら宿主の反応を用いた検査に、ツベルクリン、Quantiferon、T-spotがある。それぞれの歴史を記載する。

ツベルクリンの歴史 Wikipedia 杉山幸比古

 ツベルクリン(ドイツ語: Tuberkulin, 英語: tuberculin)とは、結核菌感染の診断に用いられる抗原である。しかし、抗酸菌感染症(結核菌や非結核性抗酸菌)に罹患した者だけでなく、BCG接種の予防接種後でも、この抗原に対して生体の陽性反応が起こることが多いので、BCG接種が行われている地域では、結核の感染診断手法としては用いられない。

 1882年に結核菌を発 見したRobert Kochは、1891年にツベルクリンと名付けた結核菌の培養濾液が結 核症の治療に有効であると発表した。しかし、その副作用や病巣の悪化がみられ、治療薬としては失敗 に終わった。この抗原は、結核菌からグリセリン抽出した蛋白質であり、結核効果はなかった。

 その後、1907年、クレメンス・フォン・ピルケPirquetは、ウマ血清または天然痘ワクチンの接種を受けた患者が、2度目の接種に対してより重度の反応を示すことを発見し、この過敏反応をアレルギーと名付けた。ピルケはその後すぐに結核菌感染者についてこの抗原でアレルギー反応が起こることを発見し、現在のツベルクリン皮膚検査を結核菌感染の診断に用いることができることを発見した。

 1908年マントゥーMantouxにより、皮内反応検査が始められ、ヒトの結核感染の判定に用いられ るようになり、今日のツベルクリン反応の基となった。当時のツベルクリンは基本的に、Kochの原法によって作られたもので、不純物の混入が問題であったが、その後、1926年アメリカの生化学者Selbertにより培養濾液の蛋白成分の精製が行われ、精製ツベルクリン(Purified Protein Derivative: PPD)と名付けられ、今日のツベルクリンが完成した。

 かつて日本では、結核予防法により乳幼児・小中学生に対してツベルクリン反応検査を行い、陰性者に対してBCG接種が行われていた(なお、BCG接種では1960年代に管針法(俗にいうハンコ注射)が導入されている)。しかし、その後の2005年の法改正により、これらの者に対するツベルクリン反応検査は廃止された。現在は予防接種法に基づき、生後1歳に至るまでの定期接種時にある乳幼児に対してのみ、ツベルクリン反応検査をせずに直接にBCG接種を行うこととなっている。

 精製ツベルクリン(PPD)とは結核菌を合成液体培地で培養、殺菌、濾過、濃縮後に硫酸アンモニウムで沈殿させ、脱塩、濾過、凍結乾燥して作製したもので、数百種類もの異なる蛋白質の混合物のことである。

 日本のツベルクリン製法は、ヒト型結核菌青山B株(毒力株)を小川培地で培養し、タンパクを含まない培地(ソートン培地もしくはリンドIIB培地)で2~3代継代培養する。培養終了後に100℃で3分間殺菌し、粗く濾過して結核菌体を除いた後に限外濾過を行い、濾液を30倍~50倍に濃縮する。更に飽和硫安で塩析を行い、ゲル濾過により硫酸アンモニウムを除去する。この濾液を凍結乾燥して原末(PPDs)とする。
 原末の規定量を0.5%乳糖水溶液に溶解してバイアルに分注し、凍結乾燥して製品化している。

 日本のツベルクリン製法は、ヒト型結核菌青山B株(毒力株)を小川培地で培養し、タンパクを含まない培地(ソートン培地もしくはリンドIIB培地)で2~3代継代培養する。培養終了後に100℃で3分間殺菌し、粗く濾過して結核菌体を除いた後に限外濾過を行い、濾液を30倍~50倍に濃縮する。さらに飽和硫安で塩析を行い、ゲル濾過により硫酸アンモニウムを除去する。この濾液を凍結乾燥して原末(PPDs)とする。原末の規定量を0.5%乳糖水溶液に溶解してバイアルに分注し、凍結乾燥して製品化している。免疫診断研究所

ツベルクリン反応(ツ反)による紅斑、硬結

 ツベルクリン検査は、様々な問題があった。PPDを皮下に接種して 72時間後に硬結ならびに紅斑、水疱等の有無にて結核感染を判定する。日本では紅斑、硬結にて判定されるが海外では硬結にて判定される。これは黒人において紅斑による判定が難しいからである。またツベルクリン検査は、BCG接種や非結核性抗酸菌症曝露による偽陽性、繰り返し測定(繰り返す再検査)でPPDに免疫され疑陽性になるという問題があった。

インターフェロンγ遊離試験(IGRA) 結核研究所

 IGRAは、Interferon-Gamma Release Assaysの略語であり、結核菌特異抗原により全血あるいは精製リンパ球を刺激後、産生されるインターフェロンγ(IFN-γ)を測定し、結核感染を診断する方法である。 現在、IGRAには2種類あり、一つは日本でも診断試薬として承認されているクォンティフェロンTBゴールドであり、これは全血を検体とし産生 IFN-γの測定にはELISAを使用している。もう一つは、精製リンパ球を検体として用いる T-SPOT.TBであり、産生IFN-γの測定法はELISPOT法である。使用する刺激抗原は結核菌群に特異的であるため、従来の感染診断法であるツベルクリン検査(TST)と比較し、特異度は格段に高くなっている。さらに、 IGRAはツベルクリン検査と異なり、医療機関への再診が不要であり、またブースター効果も無いという利点を持つ。一方、 IGRAは活動性結核と潜在性結核感染の区別は出来ず、また感染時期の特定も困難であるという制限を持つ。

Quantiferonの歴史 IGRAによる結核診断

 QFT-TBの原点は、オーストラリアにおける牛の結核感染診断法に始まる。牛の結核診断法もヒトと同様には長い間TSTが行われてきたが、牛の場合PPD接種部位は肛門近くであるため、PPD接種時の刺激により糞尿をかけられる事があった。そこで、採血にてウシ型結核菌の菌体成分抽出物で刺激し産生されるインターフェロン-γ(IFN- γ)を測定し結核診断できる、現在のQFTTBのプロトタイプの開発が 1990年初頭に行われた(Bovigam、 CSL、 Victoria、 Australia)。

 次に、Bovigam開発部により人間に応用するため、ヒト型結核菌のPPDを刺激抗原としたQFT-TB(QFT―第一世代:QFT-1G)が開発された。原田等により 1996 年に日本でこのQFT-1Gの臨床試験が行われたが、 刺激抗原がPPDであり、ほとんどの人がBCG接種を受けている日本人集団においては、BCGとの抗原交差性のため特異度が低い結果となり、診断試薬としての有用性は認められなかった。一方、米国においては、BCG接種が行われておらず、その影響もない事よりQFT-1Gの診断的価値が認められ 2001年に結核感染診断薬として承認された。

 1995年にデンマーク国立血清研究所のAndersen博士のグループより結核菌群特異的で、かつIFN-γを強く誘導する抗原ESAT-6 (early secreted antigenic target 6-kDa protein)が、さらに 1998 年には同様の抗原CFP-10(10-kDa culture filtrate protein) が報告された。原田等により日本においてもQFT-1Gの臨床試験終了後、ESAT-6 を用いた予備試験が行われたがELISAの感度が低く、その点が課題として残ったそうである。その後、ESAT-6 およびCFP-10 の二つの結核菌特異抗原と、感度をより高めたELISAの組み合わせにより、QFT-TB-2G(第二世代:QFT2G、海外でQuantiFERON-TB Goldの名称で販売)が開発された。森、原田等により 2002年には日本でQFT-2Gの臨床試験が開始され、QFT-2GはBCG接種の影響を受けず、TSTより高感度・高特異度で結核感染診断ができることが明らかにされた。この時の臨床試験は、QFT-2Gという市販の診断薬として世界初の臨床試験であった。この際に得られた判断基準(カット・オフ値)が現在世界基準となっている。QFT-2Gの診断性能は従来のTSTよりはるかに優れていたため、診断試薬として国内で申請され、2005年4月に承認、2006年1月には保険収載された。次いで2005年の後半には現在のクォンティフェロンTBゴールド(QFT-3G、海外ではQuantiFERON-TB Gold In-Tubeの名称で販売)の臨床試験も日本で着手された。QFT-3Gは 2009年4月に診断試薬として承認され、発売開始された。

現在QFT-3Gは、QuantiFERON-TB Gold Plus(QFT―第四世代:QFT-4G)に世代交代している。

クォンティフェロンTBゴールドプラス

QuantiFERON-TB Gold Plus 採血管。左から陰性コントロール (Nill), CD4用容器 (TB1), CD4 + CD8 用容器 (TB2), IFN-γ陽性コントロール (Mitogen). 通常 Nil–TB1–TB2–Mitogen の順で採血する

QuantiFERON-TB Gold Plus 添付文書

上記4本採血の煩雑さを1本のヘパリン採血管で提出できる方法もある。添付文書

T-spotの歴史 IGRAによる結核診断

 T-spot.TB検査は,ESAT-6 とCFP10 を用いて,英国の研究者たちがEnzyme-linked immunospot(ELISPOT)法を用いて開発した。これらの開発の中心はオックスフォード大学にて行われ,同大学はこの技術を実用化する目的で,2002 年にオックスフォード・イムノテック社を設立し研究手法として用いられていたELISPOT法をより簡便に,より扱いやすく改良を加え,T―スポット.TBという技術基盤を確立した.オックスフォード・イムノテック社によって完成されたこの基盤技術は,現在臨床検査の現場でT細胞の機能を測定する手法として唯一の技術であり,今後様々な疾患への適用が期待されている.T―スポット.TBは臨床検査薬として 2004年には欧州,2008 年には米国,2012 年には日本で販売が開始された.現在にいたるまでに 40を超える国・地域で販売されている.

T-spot 添付文書

QFT-Plus とT-SPOTの比較表

IGRAQFT-PlusT-SPOT
試料全血(1 mL x 4本), 採血量は厳密全血(6 mL 以上x 1本)
採血採血前後の手技あり簡便
検査方法全血を抗原で刺激しIFN-γをELISA法で測定 =IFNγの産生量を産生細胞の数で表す;よって採血量を厳格に遵守するELISPOT法(単球のIFN-γ産生T細胞数の測定) =IFN-γの産生量を ELISA 法で測定する;よって採血量はQFTより厳しくない
検査使用抗原ESAT-6、 CFP-10ESAT-6、 CFP-10
小児への適応有用性は確立されていないあり
感度94.1%97.5%
特異度97.3%99.1%
保険点数630点+144点(判断料)630点+144点(判断料)
採血管QFT-PlusヘパリンNa入り10 mL管

QFT法とT–スポット法のメリット・デメリット 日本医事新報社

T-spot検査は,QFT検査より採血現場における検体取り扱いが容易であり,また診断性能はより優れている、または遜色ない。検査する側としてはT-spot検査のほうがより扱いやすい。

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