ヒトからヒトへ伝播・流行を起こす、唯一の髄膜炎の原因となる細菌が髄膜炎菌である。髄膜炎菌はヒトにしか定着。感染を起こさず、ヒトからヒトへ直接感染する。全世界で年間30万人の発症者があり、そのうち3万人が死に至り、10%の高い致死率である。
世界的には5~20%のヒトの保菌率とされているが,日本では0.4%程度と推測されている(田中博:わが国の健康者における髄膜炎菌の保菌状況.感染症学雑誌,79:527~533,2005.https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/264/dj2644.html)
感染症法では第5類に分類されている。感染症法はこちら。
写真はヒツジ血液寒天培地における髄膜炎のコロニー。
直径 1~2 mm で淋菌よりも大型。半透明、光沢あるやや隆起した正円形集落。
ムコイド状のこともある。
コロニーの特徴は、髄膜炎検査マニュアルに記載されています。こちら。
国立感染症研究所の情報。こちら。一部改編。
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は、1887年にWeichselbaumによって、急性髄膜炎を発症した患者の髄液から初めて分離された。大きさは0.6〜 0.8 μm、グラム陰性双球菌で、非運動性である。患者および健常者の鼻咽頭からも分離される。ヒト以外からは分離されず、自然界の条件で は生存不可能である。
本菌はヒトからヒトに飛沫感染により伝播し、気道を介して血中に入り、さらには髄液にまで侵入するこ。肺炎や髄膜炎、敗血症を起こす。
髄膜炎菌は莢膜多糖体の種類によって少なくとも13種類(A, B, C, D, X, Y, Z, E, W-135, H, I ,K, L)のserogroup(血清型)に分類されているが、起炎菌として分離されるものではA, B, C, Y, W-135が多く、特にA, B, Cが全体の90%以上を占める。
疫学
日本での過去の流行
日本でも過去に髄膜炎菌の報告が多数あった。そのため「流行性髄膜炎」と呼ばれていた。これは化膿性髄膜炎のうち、大規模な流行性の髄膜炎の起炎菌は髄膜炎菌のみであることに由来する。
感染症法に基づく侵襲性髄膜炎菌感染症の届出状況、2013年4月~2023年3月 こちら。
2013年4月1日から2023年3月31日までに報告された侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の診断年月別推移が図に示されている(図1)。2014年から2019年までは年間20~40例程度の報告があった。直近では報告が少なく、2020年は13例、2021年は1例、2022年は8例の報告であった。
わが国においては、終戦前後に4,000例を超える髄膜炎菌性髄膜炎の報告があった。その後戦後は発生数は激減し、1970年以降、年間100例に未満となった。1980年以降は30例を下回り、1990年に入ると一桁台の報告数にまで減少した。
感染症法が施行された1999年以降では8〜22例が報告されている 。日本で髄膜炎菌性感染症の起炎菌としては、BおよびY群髄膜炎菌が同定されることが多い。日本ではB, Yが多く、Bが半数、Yが4分の1を占める。
世界的な流行地
世界的には、毎年30万人の患者が発生し、3万人の死亡例が出ている。特に、髄膜炎ベルト(meningitis belt)とよばれるアフリカ中央部において発生が多く、また先進国でも局地的な小流行が見られている。
髄膜炎ベルトに含まれる国は、10ヶ国(ベナン、ブルキナファソ、チャド、中央アフリカ共和国、コートジボアール、ガンビア、ガーナ、マリ、ナイジェリア、スーダン)では11,647名の髄膜炎患者が報告されており、死者は960名で致命率は8.2%となっている。こちら。
アフリカ髄膜炎ベルト。こちら。
起炎菌としての血清型
髄膜炎菌は、莢膜多糖体から12の血清型に分類されている。A, B, C, E, H, I, K, L, W-135, X, Y そしてZ
である。
アフリカではA群が圧倒的に多く、8〜12年周期で地域での起炎菌となっている。アジア(ベトナム、ネパール、モン ゴル)、ブラジルでも流行の原因株となっている。
B群はヨーロッパに最も広く認められる。
C群は米国、ヨーロッパに多く見られる。1998年にはイングラン ドでC群による流行性髄膜炎が発生し、1,500人以上が発症して150人が死亡し、C群混合ワクチン導入のきっかけとなった。
2000年から2001年にかけては、メッカへの巡礼者を介したW-135群の感染例が発生し、WHOの報告によると世界で患者約400人、死亡者約80人の犠牲者を出したとされている。
一般的に髄膜炎菌は患者のみならず、健常者の鼻咽頭からも分離され、その割合は世界では5〜20%程度とされている。
近年の研究結果から、日本での健康保菌者は約0.4%程度であることが明らかとなっている。わが国における低保菌率と髄膜炎菌性感染症の低発生率の詳細は不明である。
12種類の血清型のうち、髄膜炎菌性感染症を起こすのは,A,B,C,Y 及び W-135 の5種類がほとんどで、一部Xで起こる。よって、実践的にはA,B,C,Y 及び W-135に対するワクチンが製造されている。
髄膜炎菌ワクチン
日本では、2014年から先行承認されていたメナクトラ(ジフテリアトキソイド結合体)が使用可能であったが、2024年3月で供給中止となった。2024年3月からは後継ワクチンのメンクアッドフィMenQuadfi(破傷風トキソイド結合体)の接種が可能である。メナクトラはA、C、WおよびYの莢膜抗原をそれぞれ4 μgに含有していたの対して、メンクアッドフィは抗原をそれぞれ10 μg含有しており、より免疫原性を高めるとされている。
メンクアッドフィの添付文書、pdf.
MenQuadfi, こちら。
一方で。B群髄膜炎に対するワクチンはその多糖体構造がヒトの踏査と酷似しているたに抗体産生が起こらない。B群髄膜炎菌に対しては、前述のA, C, W, Y-135以外に別に製造されている。
Bexsero®, Trumenba®(10-25歳が対象)は、日本では販売されておらず、輸入ワクチンとなる。こどもとおとなのワクチン 参考 こちら。
Bexsero, こちら。
Trumenba, こちら。
接種の際には、本製剤を1回、0.5 mLを筋肉内接種する。
冒頭の写真は、筑波山。山と渓谷オンラインはこちら。