
図1 写真は、Trichosporon asahiiのグラム染色.
Trichosporon asahiiは酵母様形態~偽菌糸様、菌糸様形態をとる。
仮性菌糸および菌糸、出芽型分生子は1細胞性で形は多様である。分節型分生子は1細胞性で伸長形を呈する。1細胞性の出芽型分生子のほかに分節型分生子を生じる菌糸を有する。分節型分生子を形成する点でカンジダと区別される。やまざき歯科医院の情報、こちら。
出芽型分生子と分節型分生子の違い。
下図は、矢口貴志、真菌の分類と同定、こちら。

分生子とは
分生子は、子嚢菌門と一部の担子菌門の無性型(分生子世代)、および不完全菌類において形成される無性の胞子である。分生子には直接菌糸から、菌糸より発達した分生子柄 conidiophore から、あるいは分生子柄上に生じた分生子形成細胞から生じるものと、菌糸自体が変化して分断し胞子として機能するものもある。菌種により単細胞から多細胞にわたっている。同一菌種で大小の分生子が同一様式で形成される時は大きい方を大(型)分生子 macroconidium、小さい方を小(型)分生子 microconidium と呼ぶ。分生子の形態、分生子形成様式はさまざまで、不完全菌類の分類の基準となっている。
出芽型分生子 blastoconidium(上図A):菌糸や分生子形成細胞上に小突起が生じ、その先端が大きくなり分生子となり、分生子が次々に出芽して分生子が連鎖する。(例)Candida
分節型分生子 arthroconidium (上図G):菌糸に多数の隔壁が生じ、この隔壁のところで分離し、個々の細胞になる。(例)Trichosporon
トリコスポロン属とは
概論
トリコスポロン属 Trichosporonとは
トリコスポロン属 Trichosporon はトリコスポロン科に含まれる不完全菌の属の一つである。毛芽胞菌属とも呼ばれる。全種が完全世代(有性世代)を持たない酵母型である。
ほとんどの種は土壌から分離された種であるが、数種類は人や動物の皮膚常在菌である。毛髪で増殖することで「白色砂毛症」として知られる白い結節を形成したり、免疫不全者に日和見感染し、侵襲性トリコスポロン症を引き起こすことがある。
病原性
トリコスポロンは、ヒトの皮膚、膣、および消化管の常在菌叢の一部である。
トリコスポロン属真菌による感染症は、大きく以下の2つに分類される。
a) 表在性感染症 Superficial Infection
表在性トリコスポロン感染症の最も一般的な症状は、毛髪に生じる良性の不規則な結節で、white piedraホワイト・ピエドラと呼ばれる。ホワイト・ピエドラは、主にT. cutaneum, T. inkin, T. ovoides およびT. loubieriが原因となる。その他爪真菌症がある。
b) 侵襲性感染症 Invasive Infections
造血器悪性腫瘍患者では、トリコスポロン属はカンジダに次いで侵襲性真菌感染症を起こす頻度が高い。抗真菌療法による治療に抵抗性で死亡率は高く、50~80%に及ぶ. Invasive Trichosporonosis Caused by Trichosporon asahii and Other Unusual Trichosporon Species at a Medical Center in Taiwan. こちら.
抗真菌薬治療下でブレークスルーするトリコスポロン症は、基礎疾患に免疫不全患がある者で、特にアムホテリシンB、エキノキャンディン(ミカファンギンなど)、稀にトリアゾール(フルコナゾールなど)による抗真菌療法の効果が不十分な例に報告されている。
播種性トリコスポロン症は脳膿瘍、髄膜炎、眼内炎、肺炎、軟部組織病変、リンパ節腫脹、心内膜炎、関節炎、食道炎、肝臓および脾臓膿瘍、さらには子宮感染症などを起こす。
侵襲性トリコスポロン症を起こす原因菌で最多はT. asahiiはである。その病態は、皮膚または消化管が疑われる。
皮膚由来:中心静脈ラインやカテーテルを介して菌が定着した皮膚から侵入する外因性、
消化管由来:免疫不全患者における腸管を介した内因性、
が原因で起こる。
c) 過敏性肺炎
トリコスポロンは過敏性肺炎を起こす。日本では夏型過敏性肺炎の主要な病原体はT. asahiiと考えられている。その他、T. cutaneumがある。
Trichosporon asahii とは
菌名の由来 Trichosporon asahii
Trichosporon (derived from Greek, meaning referring to the fungal infection white piedra) with the specific epithet “asahii,” likely honoring a person associated with the fungus or its discovery.
Trichosporon
トリコスポロンTrichosporonは、その名前をギリシャ語に由来し、”thrix”「毛」を意味する。
“-sporon”:ギリシャ語の”spora”「種子、胞子」を意味する。
「毛状の胞子」、「毛に関係する胞子」を意味する。
Trichosporon属の菌は毛髪や皮膚に、白癬に似た病変(白癬様症状)を起こし、「白色砂毛症」と呼ばれる。Trichosporonの属名は1880 年に創設された。
asahii
深在性トリコスポロン症あるいは夏型過敏性肺炎の主要な原因菌として知られてきたが、基準株は皮膚由来である。”asahii“は九州大学皮膚科教授の旭憲吉の姓”asahi”に由来し、これを、1929年にAkagi Seizoが新種として発表した。のちに種名”asahii“が認められた。こちら。
九州大学皮膚科学 旭憲吉教授の情報はこちら。
Trichosporon asahiiに対する抗真菌薬治療

図2 抗真菌薬作用機序. MycoLabo こちら。
アムホテリシンB(AMPH-B)およびアゾール薬は真菌細胞膜の主成分であるエルゴステロールに作用することで抗真菌効果を示す.
AMPH-Bはエルゴステロールと不可逆的に結合することにより,細胞膜の脱分極が起こり膜透過性に直接障害を与える.
アゾール薬はエルゴステロールの合成酵素であるC14α一ラノステロールデメチラーゼ(14DM)を阻害する.
両者は真菌細胞膜を標的とする点においては同様であるが,AMPH-Bの効果は殺菌的であるのに対してアゾール薬は静菌的である.
キャンディン系抗真菌薬(MCFGに代表される)は、真菌細胞壁β-1,3-D-グルカンの生合成を阻害する.したがって,細胞膜を標的とする薬剤とは交差耐性を示さない特徴があるが,近年ではトリコスポロン症に対するブレイクスルー感染症が臨床上問題となっている.
トリコスポロン属に対する様々な抗真菌薬の効果を評価するための抗真菌薬感受性試験は、臨床検査基準研究所(CLSI)の微量液体希釈法(2008年)に基づいて行われている。欧州抗菌薬感受性試験委員会(EUCAST)の微量液体希釈法も使用されていたが、これはカンジダ属に対して推奨されていたが、ブレークポイント(BP)が特定されていない。
T. asahiiは他の酵母様菌種と比較して、
アゾール系薬剤に対してより優れた感受性を示し、ボリコナゾールおよびポサコナゾールに対して良好な感受性を示す。
アムホテリシンBに対して比較的耐性である。アムホテリシンBに対して2 μg/ml以上の高いMICを示す。多くの研究では、in vitroおよびin vivoにおけるアムホテリシンBの作用は限定的であることを示している。
Trichosporon asahiiを含むほぼ全てのTrichosporon 属の分離株はエキノキャンディン系薬剤に対して自然耐性を示す。よって治療薬として選択されない。
(好中球減少症を伴う)播種性トリコスポロン症例では、ボリコナゾールが第一選択薬と位置付けられる。
エキノキャンディンは自然耐性が報告されており、トリコスポロン症の治療には推奨されない。
5-フルシトシン(5FC)もトリコスポロノーシスに対して活性を持たない。しかし、5-FCとアムホテリシンB(AMPH-B)の併用療法がトリコスポロノーシスの治療に良好な結果を示すとの報告もある。
冒頭の写真はホロホローの森の上から見た風景。ホロホローの森の紹介はこちら。

写真はナナホシキンカメムシ。紹介はこちら。
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