若手医師に患者問診について質問があったので、まとめました。
以下、徳田先生、仲里先生の論文を参考にしました。一部編集して記載。
主な参考文献
徳田 安春: 初診時の系統的レビュー(review of systems:ROS): medicina. 2008. 45(1). pp. 25-27.
初診時の系統的レビュー Review of systems:ROS
要点
● 医療面接は,医師にとって最も重要な技能である.
● ROSは主訴と現病歴を補完し,全身の症候把握を完成することができる.
● ROSは誤診と治療失敗を系統的に回避する有用なツールである.
● 心理社会的背景を把握することで全人的医療の視点を得ることも可能となる.
● ROSは「病歴」のなかに含まれ,患者の主観的所見(S)に属する.
医療面接は臨床能力を決定する因子
医療面接(medical interview),すなわち病歴の聴取(history taking)は,医師にとって最も重要な能力(技能,clinical skill)である.多くの症状において,病歴のみでほぼ臨床診断できるが,詳細な病歴聴取・問診を省略して、画像検査(CTやMRI等)と臨床検査(採血一般)のみに頼る傾向が若い医師にしばしばみられる.
医療面接の能力は医師の生涯をかけて磨いていくべき技能であり,熟達した先輩から学ぶべきことが多い(表).
表 臨床能力の 5大因子
- 医療面接における情報収集能力(情報収集能力(患者さんの抱えている問題を知ること)
- 医学知識
- 医療技術
- 臨床的判断力
- 態度
系統的レビュー(ROS)とは
ROS は,各系統の重要な症状についての質問をチェックリスト形式でまとめたものである.現病歴や既往歴のなかで見逃されているかもしれない症候(symptomatology)を各器官,系統別に整理したリストである.
ROSは主訴(chief complaint)と現病歴(history of present illness)を補完し,全身の症候把握を完成することにより,誤診と治療失敗を系統的に回避する有用なツールである.各器官・系統別としては,脳神経系,感覚器系,呼吸器系,循環器系,消化器系,筋骨格系などのように分類される.
ROS の役割は,現病歴とは別に,各器官・系統別に症候を拾い上げることである.
ROS は,主訴や現病歴からは想起されにくい医学的・心理的・社会的な内容を系統別に問診することで,患者には体系的な枠組みで種々の症候を考慮する機会を与え,漏れの少ない診療情報の収集を行うことができる.
ROS は,広範な鑑別診断を推論する過程に役立つだけではなく,患者自身の症状を系統的に網羅したかたちで捉えることにより,問題リスト(problem list)を完璧なものとすることができ,長期的視野に立った患者中心の医療および全人的医療の実践にもつながる技能でもある.この視点からも,心理社会的背景を ROS でもチェックすることが必要であり,この問題を把握することで初めて,患者中心の医療ならびに全人的医療の視点を得ることが可能となる.
効果的な ROSを行うためのコツ
身体診察の際,診察している身体部位に対応したROS 項目を、同時に尋ねていくという方法は多忙で短時間しかない外来診療では有効な方法である.これにより,診療時間を節約できるのみならず,(身体診察のみしか行わない)沈黙の身体診察から,(身体診察中に適切な質問を実施する)対話のある身体診察を実施することができ,患者―医師関係を良好にしていく効果があると考える.
ROS の全身的項目
ROS の全身的項目は重要である.すなわち,睡眠・食欲・便通・体重の変化は,医療面接における「バイタルサイン」ともいうべき重要な項目であるので,ROS には必ず含めるようにする.
*その他、排尿についても聴取する。
内服・投薬内容
主科の病院での投薬以外に,他科・他院で処方されている投薬内容も,必ず漏らさずに聞き出し、薬剤名を記載する.この場合,患者に服用中の薬をすべて持参してもらい,薬剤部にチェックしてもらう方法も有効である.
心理社会的背景
心理社会的背景の問診では,日常生活における健康への関心や心理状態など,患者の背景をイメージして話を聴く.なかでも重要なことは,患者の気持ちに配慮し,プライバシーは守られることを十分説明し,他人に聞かれない部屋など,患者が安心して話せる環境をつくるなどの十分な配慮をすることである.
代替補完医療(complementary & alternative medicine:CAM)の利用
代替補完医療についても注意を払う必要がある.市販漢方薬やサプリメント,いわゆる健康食品などの薬理系 CAM の利用,針灸・マッサージ・気功などの民間の理学系CAM の利用は,医師が認知している以上に,患者においてかなり広まっているためである.
具体的なROSの項目
【全身的項目】
体重の変化,食欲不振,睡眠障害,疲労感,夜間の発汗,発熱,服用薬剤歴,アレルギー歴,代替補完医療の利用,排尿
【各系統項目】
各系統項目は、患者を診察している際に身体部位に対応した ROS 項目を同時に確認していくと方法は、忙しい外来診療で有効な方法である。*視診、触診が重要である。
皮膚:発疹(丘疹/紅斑/水疱),蕁麻疹,アトピー,痛み,痒み,紫斑,しこり,リンパ節腫大,爪・髪の異常,光線過敏,ネコに引っ掻かれた既往,手術痕,頭けが・外傷,幻暈(浮動性,回転性),失神,頭痛,黒子の変化,乾燥,潰瘍性病変
目:視野障害,めがね/コンタクト,複視,黒点,羞明,涙,痛み,照明の周りのハレーション,充血,かすみ目,緑内障や白内障の既往
耳鼻口:聴力低下/難聴,耳鳴り,感染症歴,嗅覚変化,鼻詰まり,副鼻腔のトラブル,耳ダレ,歯肉出血,歯治療歴,義歯,舌痛/味覚変化,口腔・喉の痛み,嗄声,声の変化
胸:しこり(圧痛/可動性の有無),腫脹,乳頭分泌,自己チェックの頻度,女性化乳房
胸部と血管系:高血圧・高脂血症,虚血性心疾患,不整脈,血栓性静脈炎,気管支喘息などの既往,胸痛・胸部圧迫感(場所,質,関連/放散),動悸,胸部・腹部拍動感,呼吸困難,息切れ,起座呼吸,喘鳴,咳嗽,喀痰の色,血痰,呼吸器感染症,夜間発作性呼吸困難,浮腫,チアノーゼ,間欠性跛行,喫煙歴(年数×平均 1日本数),リウマチ熱の既往,心雑音の指摘,心電図異常の指摘,心臓疾患の既往,胸部X線写真の異常の指摘
消化管・消化器系:消化管潰瘍の既往,嚥下困難,心窩部不快感,げっぷ,胸焼け,悪心,嘔吐,吐血,黄疸,腹痛,腹部膨満感,便通:整/不整,便秘,下痢,便の異常(色,におい,便柱の太さの減少),血便,肛門痛,脱肛,肛門出血,変わった食事,渡航歴,肝臓・胆嚢・膵臓疾患の既往
泌尿器系:腎疾患,前立腺疾患の既往,尿の回数,排尿困難,排尿時痛,血尿,夜間尿,膿など,石,尿線の変化,失禁,尿路感染歴,インポテンツ,陰部痛
婦人科系:初潮,閉経の年齢,整・不整,月経時の症状・量・期間の異常,最後の月経,現在の妊娠の可能性,月経困難症,胎児関連(妊娠数,分娩数,流産数),
内分泌・血液系: 糖尿病,甲状腺疾患,血液疾患の既往,口渇,嗄声,温度に対する不適応,多汗,第二次性徴の異常,髪や皮膚の張りの変化,貧血,出血傾向,リンパ節の腫大
筋骨格系:骨粗鬆症,リウマチ,関節痛,筋肉痛,関節腫脹,関節可動域の制限,背部痛,腰痛,膝痛,痺れ,チクチクした痛み,朝のこわばり,目がごわごわ,口が乾く
神経・精神系: 脳血管障害,癲癇発作,失神,痙攣,前駆症状,振戦,麻痺,異常感覚,記憶困難,構語障害,痺れ,歩行障害,気分の変調(意欲減退),自殺企図(自殺の考え),異常知覚(幻覚,妄想),精神科受診歴,虐待の既往,嗜好薬物・アルコール,不安感,うつ傾向,早朝覚醒,快感の喪失
感染症: 結核・B型肝炎・C型肝炎・HIV感染・性感染症などの既往,破傷風・肺炎球菌・インフルエンザなどのワクチン歴,新型コロナウイルスのワクチン接種歴,最近の結核感染の所見 (インタフェロンγ遊離試験の結果)
系統的レビュー review of systems(ROS)
医療面接の4要素
- たずねる
- 聴く
- 観察する
- こたえる
- たずねる
1)neutral question:中立型の質問
「中立的質間」とは、患者さんの名前や生年月目・職業・住所などを尋ねる質問を言う。通常の診療の場で、名前や生年月日を尋ねるのはカルテと患者さんを照合する意味合いが強い。
2)open-ended question:開放型の質問
「開かれた質問」とは、「どうされましたか」、「今日はどういうことでいらっしゃったのですか」、「どのようなことで来院されたのでしょう」など、患者さんが自由に症状や来院理由について話せるような質問をいう。はいYesまたは、いいえNoでは答えられない内容である。
特に初診患者さんに対面して名前を確認した後、まず最初の質問は、この開放型の質問形式を用いるべきである。その場合、患者さんは「自由に」訴えを述べるため対面したら、最初の数分間黙って話しを聴くことである。
3)focused question : 焦点をあてた質問
「焦点をあてた質問」とは、特定のテーマに焦点を絞った質問であり、以下の閉じられた質問よりは自由に、しかし前述の開かれた質問よりは自由度の低い質問である。この形式は最も臨床で用いられる頻度が高い。
例えば、患者さんの「最近、頭痛がして困っているんです」に対して、「どのような頭痛か、もう少し説明してもらえますか?」などと聞く。
4)closed question : 閉鎖型の質問
「閉じられた質問」とは、患者が「はい」または「いいえ」で答えられるような質問を言う。パターナリスティクな関係、誘導的な面接に陥りやすいため、多用すると危険である。
5)multiple choice question : 多項型の質問
質問にたいする回答を、あらかじめ医師が限定して聞く質問方法である。誘導的な質問方法であり、なるべく避けた方がよい。
また、以下のような質問形式は避けた方がよい。
double question:一度に複数の質問をすること。
vague question:主観的なあいまいさの含む質問。
unequal question:社会的な価値判断にさわるような内容をふくむもの。
聴く
聴き方のコツ:患者の訴えをそのまま受け取る。
患者に正直な話をさせるように工夫する(態度、言葉)
患者さんの訴えの途中で、患者さんの話しの腰を折らない。会話を遮らない。
こたえる
(1)支持的
促し : facilitation
「促し」とは、滑らかに言葉が続かない患者に話を続けるよう、促す言葉や表情を言う。短い返答や表情で促すことで、患者は安心して話しを続けることができる。「そしてどのようになったのですか?」「それからどのように変わりましたか?」
繰り返し : repeat
「繰り返し」とは、患者さんが話した内容を医師が繰り返し確認することを言う。タイミングよく使えば、有用な手法である。
「頭痛があるんです」→「頭痛があるのですね」
(2)共感的
共感 : sympathy or empathy
「共感」とは、痛みや不安に苦しんでいる患者さんの感情を医師の側で察知し、患者さんが話す前に、そのような感情を理解している旨を言葉で伝えることをいう。相手の感情について理解していることを直接伝えることは、相手の心をなぐさめるうえで絶大な力をもつ。「1年前に母が亡くなったんです」→「それはお辛いことでしたね。」
妥当化 : legitimization
「妥当化」とは、患者自身、妥当かどうか自信が持てないような気持ちや行動について、医師が当然であると認め、受け入れる旨を言葉で伝えること。医師が保証することで、患者の無用な不安感を予防できる。
(3)解釈的
患者さんの側で多言を要する事実や症状の説明を、簡単な言葉やシンブルな医学的な用語に置き換えることは、患者さんにとっても医師にとっても有用なことが多い。しかし、解釈のしすぎはときに診断のあやまりの原因となる。
例)患者さんが「おなかがチクチクした」→すぐさま「腹痛」と置き換えたり、「ふらふらした」→めまい、「便が黒っぽかった」→タール便など、最初から決め込んでしまうことで、診断プロセスの入り口のところで誤りをおかしてしまうことがある。間違いの例)「痰に血が混ざった」→「血痰」と思っていたら、実は鼻血だった。
医学用語に置き換えることは、医師にとってはその後の鑑別診断を考えるうえでは重要な手順ということになるが、患者さんにとっては必ずしも訴えようとしている症状や兆候が正確には反映されない結果になってしまうことがある。医学的な解釈を急ぐことで、重要な情報を切り落としてしまう可能性があり注意を要する。
(4)要約recapitulation
患者さんの話が理解しにくく、くどかったり、まとまりを欠く時に、それまでの話の内容を理解し簡潔にまとめて、患者さんの確認をとる方法を「要約」と言う。医師と患者さん双方の理解のずれを防ぐ。
また問診の最後に「要約」をするとよい。「今回受診の理由となったあなたの症状、経過をまとめますね」と断っておいてから、問診した内容で患者が訴えた言葉をそのまま、まとめに使うとよい。
「本日、病院に来た理由は、3日前から咳と痰がでてきました。その後、昨日から39℃の発熱があり、発熱のときにがちがちと震えたからいらっしゃったのですね」という具合で、言葉に齟齬(そご)や乖離(かいり)がある場合は、その都度修正してもらう。
(5)直面化 confrontation
「直面化」とは、患者自身がはっきりとは気づいていない感情、またはあえて口に出さなかった心の動きを、医師の側から鋭く言い当てるように指摘することをいう。患者さんのこころを傷つける可能性があるため、熟慮のうえのみ用いる。「あなたは、本当はその仕事にいきたくないのではないですか」など。
(6)沈黙 silence
患者さんと対面していると、慣れない間は数秒の沈黙でさえも長く感じられるものである。しかしときとして、沈黙の時間を共有することが重要な情報を引き出すきっかけとなりうることがある。
観察する
1)身体徴候の観察。
2)非言語的コミュニケーションの観察:心理状態
body language : ため息、うつむき、怒り、抑うつ、依存的等。
解釈モデル:患者さんが自分の今の病状をどのように解釈し、理解し、そして本人なりに、どういう見通しを思い描いているのかということ。医師と患者の間にはこの点においてしばしば乖離がある。
解釈モデルを引き出すための質問
あなたはどういうことを一番心配していますか?→「手がしびれているのは脳梗塞かもしれないと心配である」
自分では何か原因のようなものに思いあたりますか?→「心配なことがあり、眠れない。疲れている原因は不眠のせいかも知れない」
なにかしてほしい検査や治療のことを考えて来られましたか。→「自分は胃癌かもしれないと思っているので、胃カメラをして欲しい」
こういう状態になって、生活のどういうことが一番変わりましたか?→「食欲が低下し、体重が落ちたため、ふらふらする。これまで定期的に運動をしていたが、これもできなくなった。」
こういう状態になって何が一番困りましたか?→「咳が続いているため、職場では新型コロナウイルス感染症かもしれないと言われ、仕事ができない」
参考文献
徳田 安春: 初診時の系統的レビュー(review of systems:ROS): medicina. 2008. 45(1). pp. 25-27.
仲里 信彦: Review of systems:ROSシステムレビュー: 日本プライマリ・ケア連合会雑誌. 2010. 33(2). pp. 153-154.
徳田安春:燃えるフィジカルアセスメント:1. 医療面接:https://blog.goo.ne.jp/yasuharutokuda/e/e53b3303875e28eec1d04a4d2273ea8d
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