写真は、血液培養から検出された Eubacterium limosum
嫌気性菌とは. 中澤 太.口腔内偏性嫌気性糖非分解菌Eubacterium, 2005.
嫌気性菌は地球上で酸素のない状態で最初に発生した生物が嫌気性菌と考えられている。
その後、地球上の酸素の発生に伴い、酸素を利用できる好気性菌が出現し、進化してきた。
一般的に酸素の存在によって、活性酸素が生成される。活性酸素にはO2-(スーパーオキシドラジカル)、H2O2(過酸化水素)、OH(ヒドロキシラジカル)が含まれる。これら活性酸素は、微生物のDNAや細胞膜に損傷を与える。酸素存在下で生存できる好気性菌は、これら活性酸素を分解し、無毒化できる能力を獲得した。これは、
スーパーオキシドジスムターゼ:O2- + 2H2→H2O2 + O2; スーパーオキシドラジカルが2個の水素と反応して、過酸化水素と酸素が合成される
カタラーゼ: 2H2O2→2H2O + O2; カタラーゼが2個の過酸化水素と反応して、2個の水と酸素が合成される
パーオキシダーゼ:H2O2 + RH2→2H2O + R; パーオキシダーゼがRH2と反応して、2個の水とRが合成される
これら酸素を産生する脳梁駆を獲得することで、活性酸素による細胞障害から免れる。
しかし、一般的に嫌気性菌の多くはこのような酸素を産生する能力はなく(または低い)、活性酸素による細胞障害を強く受ける結果となり、酸素の多い好気的条件下では生育することが困難(またはできない)である。
Eubacterium spp.とは こちら。
Eubacterium属は無芽胞性、偏性嫌気性のグラム陽性桿菌である。Eubacterium属は、1938年、Pr´evot により初めて報告された。その基準菌種であるEubacterium limosumは、嫌気性菌の再分類がたびたび繰り返されてきた。本菌はヒト腸管内の正常細菌叢を形成し、腹膜炎、菌血症といった感染症を起こす。稀に感染性心内膜炎の原因となる。
Eubacterium spp.の分類
現在、LPSNに、Eubacterium属は69菌種が登録されている。(LPSN)。
嫌気性菌はその分類が難しく、終末代謝産物の種類によって同定されてきた経緯がある。Eubacterium属も終末代謝産物によって定義されており、グルコースからの終末代謝産物が蟻酸、酢酸、酪酸を産生するもので、以下の細菌以外を、「Eubacterium属」と定義していた。
終末代謝産物からみたEubacterium属以外の細菌
Actinomyces属:アクチノマイセス属。主たる終末代謝産物がコハク酸 succinic acid
Bifidobacterium 属:ビフィドバクテリウム属。主たる終末代謝産物が酢酸と乳酸。
Lactobacillus属:ラクトバチルス(乳酸菌)属。主たる終末代謝産物が乳酸。
Propionibacterium属:主たる終末代謝産物がプロピオン酸
しかし、これらは代謝産物による分類より、現在は16S rRNAによる分類が主流となってきている (こちら)。よって、歴史的に培養が困難であった細菌が新規に新しい属に分類されることがある.
菌名の由来
Eu-: 良い、利点のある. こちら。
Eubacterium属で代表的な菌種 Eubacterium limosumは、” limosum” スライム状、の意味。こちら。
治療
一般的に嫌気性菌に対する抗菌活性のある、カルバペネム系、メトロニダゾール、ピペラシリン・タゾバクタムに対して良好はMICを有する。一方、アンピシリン、クリンダマイシンなどには抵抗である。
ゲノム
Eubacterium属で代表的な菌種 Eubacterium limosum ATCC 8486. こちら。
- 4,370,113 塩基対
- G-C含量は47.2%
- 51 個のtRNA 遺伝子
- 11個の rRNA 遺伝子
が存在します。
* G-C含量は、過去と比較して現在では重視されていないと考える。
G-C含量は、ゲノムの安定化に関連する。GC含量は二重らせんの安定化に関係する.GCペアはATペアより水素結合の数が多く結合力が強いため,GC含量が高いゲノムはより安定であるとされていた.しかし,ゲノム解析が進むにつれて超好熱菌はGC含量を高くすることによりゲノムを安定化しているわけではないことが明らかになった.超好熱菌Pyrococcus furiosusのGC含量は41%である.超好熱菌よりもむしろ好塩菌のGC含量が高いことが知られている.
コメント 細菌のゲノムの多くの場合は、1個の環状二本鎖DNAで、その長さは80~800万塩基対とされる(多くは2~4 Mbp; 200~400万塩基対)。ゲノムにコードされる遺伝子の数は700~7,900個と幅がある。また3~5万塩基対のプラスミドを獲得していることが多い。同じ菌種間でも標準株と臨床分離株を比較すると、臨床分離株には500 Kbp(50万塩基対)の長さのDNAが付加されていることがある。
冒頭の写真は屋久島の三根杉。こちら。
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