世界の結核、日本の結核
世界の結核の歴史 古代エジプトのミイラから典型的な結核の痕跡が見つかるなど、結核は人類の歴史とともにある古い病気である(古代エジプト時代は、紀元前3000年頃~紀元前30年、ローマによって滅ぼされるまでの時代)。エジプトでは多くのミイラに骨カリエスに相当する病的変化が見出されることがMorse Dら(1964)により報告された (Morse, D., D.R. Brothwell, and P.J. Ucko, Tuberculosis in Ancient Egypt. Am Rev Respir Dis, 1964. 90: p. 524-41.)。
日本の結核の歴史
日本での結核症の歴史については,青木正和の著「結核の歴史」によれば,日本各地の縄文時代(約13000年前~2300年前間に、約1万年間続いた時代)まで発見されていない。その後弥生時代初期(紀元前300年~300年)と思われる鳥取県の遺跡の遺骨に脊椎カリエスに一致する変化を見出した。これは多数の大陸から移住民が来日した時代に,アジア大陸より伝播したと思われる。日本では、明治以降の産業革命による人口集中に伴い、結核は国内に蔓延し、「結核は国民病」と呼ばれた。昭和26 年に「結核予防法」が制定されて以来50 年経過したこの数年、結核の死亡率順位はつねに20 位以下である。しかし、大都市の一部(大阪など)の結核罹患率は依然として高く、また集団感染事例もたびたび報告されている。
世界的には開発途上国では依然として公衆衛生上の大問題であり、交通手段の高速化、大量化、効率化によって感染者の移動も容易となっている。そしてエイズの世界的蔓延によってHIV 感染者が増加し、免疫不全に伴う結核症が報告されている。
結核菌群の系統樹
2002年にパスツール研究所のBroschらは,ソマリアの結核患者から分離され特異な細菌学的性状を示す結核菌株の 1 種,M. canettiiを含めての研究を報告している。そして,結核菌,アフリカ型結核菌M. africanum,ネズミ結核菌M. microti,牛型結核菌M. bovis以外の類縁の菌のRegion of difference(RD)領域の欠落状況を調べた。その結果、M. canettiiには house keeping geneの多形性はあるが RD領域の欠損がないため,結核菌群の共通祖先により近い“古い”別の菌種であると考えた。その共通祖先から ancestral M. tuberculosisが 誕生し,さらに遺伝子の欠損や変異が加わって 近代のmodern M. tuberculosis群となり,さらに他の RD欠損が加わって,M. africanumさらに M. bovisが派生してきたとされている。
結核菌M. tuberculosis H37Rv 株はもっとも良く知られた研究株で、その全塩基配列(4,411kbp)は1999年に解読された。また、毒性のある牛型菌M. bovisを長期間培養して弱毒化したBCG (Bacillus Calmette – Guerin)は、結核ワクチンとして80 年以上にわたり世界中で使われている。
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