前立腺における粘液性腺癌は特殊(稀)である

病理

 

長沼 廣.粘液腺癌 こちら

 粘液性腺癌mucinous adenocarcinoma は腫瘍細胞の胞体内に粘液を含み,腺管内に豊富な粘液を産生する腺癌である.粘液性腺癌は広義には粘液癌mucinous carcinoma,粘液細胞癌mucinous cell carcinoma,印環細胞癌signet-ring cell carcinoma,膠様腺癌colloid carcinomaなどと同意語として使われることがあるが,各臓器の取り扱い規約では前述の名称が狭義に分類されている.

 粘液性腺癌は子宮癌,胃癌,大腸癌,膵癌,胆嚢癌,乳癌などに見られる.乳癌や膵癌では一部に粘液を見ても粘液性腺癌と分類しない。細胞診で粘液産生性腫瘍細胞を認めても安易に粘液性腺癌と診断できない.粘液結節を形成する場合は粘液内にごくわずかしか癌細胞を見ないことがあり,細胞診で粘液が多量に採取されたときは注意を要する.

 細胞異型と構造異型に乏しく,癌と判断することが難しい例もあり,良い例は子宮頸部の悪性腺腫adenoma malignumである(悪性腺腫adenoma malignumは、2003年のWHO分類から、最小偏倚腺癌minimal deviation adenocarcinomaへ名称変更されている).

論文紹介。

Epidemiology of Mucinous Adenocarcinomas こちら

粘液性腺癌mucinous adenocarcinoma (MA)は、細胞外に粘液(ムチン)が腫瘍の50%以上を占める腺がんのまれな組織型である。MAに関するほとんどの文献は大腸および乳房に発生した腫瘍が多い。しかし、これらの詳細は不明である。大腸癌では、一部のMAは粘液成分内に印鑑細胞癌signet-ring cell carcinomaが浮遊していることがあり、この癌は高率に転移する可能性がある。MAと印鑑細胞癌は、粘液を産生する腫瘍群であるが、印鑑細胞癌の粘液成分は細胞外ではなく細胞内に存在する。

MAは発症年齢がやや早く、発症時の局所および遠隔病変の割合が高いことが報告されている。予後は腫瘍の発生部位に依存している。

病理組織像。(a)通常型の腺癌。管状構造を形成する。粘液産生を認めない。 (b)粘液性腺癌。腺癌の周囲は粘液に囲まれる。このような像を粘液湖mucinous lakeと呼ぶ。

図 粘液性腺癌の腫瘍発生部位の割合

(a)粘液性腺癌の疫学、1975~2016年、合計169,595例。多い順に、大腸、乳腺、肺、直腸、膵臓、卵巣、胃、虫垂・盲腸、子宮、胆嚢・胆道、子宮頸部、小腸、食道、前立腺、膀胱、肛門。

(b)全固形腫瘍のうちの非粘液性腫瘍の分布、1975~2016年、合計944万例。

病理学会コア画像 こちら

乳癌において、粘液癌は比較的多く診断される。病理学会コア画像では、粘液内に浮遊する癌細胞の集塊を認める。癌細胞の周囲は粘液である。腫瘍細胞の量に比べ粘液が多く、この癌の粘液産生能は高い。

前立腺の粘液性腺癌
冒頭の写真は前立腺の粘液癌成分

 病理学的に広範な粘液分泌を示し、その粘液中に多数の粘液産生性腫瘍細胞塊が浮遊する像、粘液湖mucin lakeの形成と、lake内での腫瘍増生を示すものを粘液性腺癌(粘液癌)mucinous carcinomaと呼ぶ。
前立腺粘液癌の診断基準は、切断された検体で癌の25%以上に細胞外の粘液漏出所見を有するものとされている。この基準で診断すると、粘液癌は前立腺癌全体の0.2%と稀である。
通常の前立腺癌の一部に細胞外粘液漏出を示す場合(癌全体の25%未満)は、前立腺癌の一部に粘液像を伴うものprostatic adenocarcinoma with focal mucinous features、と診断する。
生検では癌全体における粘液成分領域の割合を正確に判定できないため、adenocarcinoma with focal mucinous featuresとする。
 なお、粘液癌mucinous carcinomaとコロイド癌colloid carcinomaは同義である。

鑑別診断

 前立腺では粘液性腺癌は少ないため、その成分を診た場合には、他臓器原発巣からの浸潤・転移が前立腺粘液癌の鑑別に挙がる。特に尿道、膀胱、大腸原発で二次性に腫瘍が前立腺組織に進展したものが挙がる。

尿道原発粘液癌

 尿道に腺腫あるいは上皮内腺癌が存在するため、その観察を行う。

膀胱癌または大腸癌原発の粘液癌の進展

 進行癌であることがほとんどであるため、臨床情報を確認する。

 組織所見のみで粘液癌部分において前立腺由来か他臓器由来かを鑑別することが難しいため、前立腺癌であれば通常の腺房型腺癌の形態を示すため、粘液癌と通常型腺房腺癌が観察されるかが重要である。(前立腺癌の細胞異型は軽度のことが多い。)

 膀胱癌、大腸癌の浸潤・転移であれば、腸管型腺癌の特徴を有し、細胞異型は高度である。

免疫染色は前立腺原発であれば、CK7(-), CK20(-), PSA(+)

その他の癌は鑑別に挙がる臓器の免疫染色特異性に依存する。

写真は千葉・南房総の砂浜にある桟橋。NHK 72時間で紹介されました。こちら

詳細は千葉県観光ナビ こちら

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