ドレナージされている菌血症を伴う胆管炎の抗菌薬治療日数は明確に設定されていないが、グラム陽性球菌菌血症であれば14日間が妥当である

内科・感染症

横江 正道:ドレナージできている胆道感染症では,菌血症事例でも5日間の抗菌薬投与で十分ってホント?:medicina 52巻 6号 pp. 918-921(2015年05月)

によくまとめられているため、これを参考にしました。

結論

 ガイドラインに「ドレナージできている菌血症事例でも5日間(4~7日間)の抗菌薬投与で十分である」と記載されているが、患者背景、血液培養結果、菌名および感受性を考慮すると5日間と断定的に言うことはできないと考えます.

はじめに

急性胆道感染症における抗菌薬治療の目的は,全身感染徴候の改善と局所の感染制御,手術症例における手術部位感染の予防,膿瘍形成の予防にある.ガイドラインには,本稿のテーマ通りの記載はない.

診療の基本に立ち返れば,培養検体の確実な提出によって導かれる結果として,抗菌薬選択ならびに治療期間まで個々の症例で変化する.あくまでも,培養および感受性結果により抗菌薬治療を最適化することを前提とした推奨であることを踏まえ,ガイドラインを読む場合には留意しなければならない.

胆道感染症の病態

急性胆管炎や急性胆囊炎が発症する背景には,総胆管結石や胆囊内結石が関与していることが多く,重症化を予防する目的や,実際に感染があると考えて,抗菌薬を投与する医師が多い.しかし,いずれも結石の嵌頓、胆管内結石などが主病因であることを考えると,結石の除去やドレナージなどの治療が病態改善において重要であり,抗菌薬の投与はあくまでも補助的な治療法であると考える.

急性胆管炎において胆道ドレナージが成功,また,急性胆囊炎において胆囊摘出術が完了すれば,抗菌薬は不要,あるいは短期間(4~7日間)の投与でもいいのではないか? というのが常に議題に挙がる。

急性胆管炎は急性胆囊炎に比べて菌血症に陥りやすく,ショックや意識障害に陥りやすい.急性胆囊炎における血液培養の陽性率は 7.7~15.8%と報告されているが、一方急性胆管炎では 21~71%と報告されている.以上から急性胆管炎における菌血症対策は急性胆囊炎よりも重要であると言える.急性胆道感染症における菌血症の分離菌の頻度が,ガイドラインにまとめられている.文献的な急性胆道感染症において菌血症の原因となる微生物の多くは,グラム陰性菌(大腸菌など)である.この結果から感染性心内膜炎や血流感染の合併症(その他膿瘍形成)の頻度は,グラム陰性菌よりもグラム陽性球菌のほうが高いことが知られている.

急性胆道感染症においてグラム陰性菌による血流感染症を併発した場合,レンサ球菌Streptococcus spp. や腸球菌Enterococcus spp. などのグラム陽性球菌のような,抗菌薬の投与期間を最低 2 週間が推奨されている。(Tokyo Guidelines 2018: antimicrobial therapy for acute cholangitis and cholecystitis. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jhbp.518/full

「ドレナージできている菌血症事例」を考えた場合,問題になるのは,菌血症すべてについて言及することができない点である.すなわち,原因菌がグラム陰性菌なのかグラム陽性菌なのかで対応が異なることになり,それはドレナージの可否に必ずしもよらないと言える.いずれにしろ,急性胆管炎,急性胆囊炎のどちらの場合であっても,血液培養を適切なタイミングで採取しておくことが,治療戦略を考えるうえで重要である.

 埼玉協同病院において、2020年5月1日~2022年5月31日まで607件の血液培養陽性者を認めた。そのうち、胆管炎は119件(19.6%, 全体607件中)、うち複数菌検出は28件(23.1%, 119件中)、グラム陽性球菌検出は19件(15.9%, 119件中)です。

 胆管炎は尿路感染症や肺炎などの単一菌検出疾患と異なり、複数菌検出が多く、またレンサ球菌や腸球菌といったグラム陽性球菌検出が多いです。つまり、

  • 胆道系感染症(胆管炎)で、血液培養から単一菌が検出されたとしても、背景の病態はグラム陰性桿菌、グラム陽性球菌、嫌気性菌といった複数菌が関連する病態であると考えられる。
  • 血液培養からグラム陰性桿菌が検出されたとしても治療薬はアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)、ピペラシリン・タゾバクタム(TAZPIPC)や、第3世代セファロスポリン系薬+メトロニダゾールのように、これら複数菌をカバーする抗菌薬使用が望まれる。すなわち「胆道系感染症は血液培養から検出された菌のみの病態ではなく、胆管・胆嚢中に存在する複数菌が関連する病態である」

 

抗菌薬の投与期間

前出のTokyo ガイドラインによれば、エキスパートオピニオンであることが記載されている.エキスパートオピニオンは文字の如く「専門家による意見」であり、経験則に基づく。

エキスパートオピニオンとは https://evineko.com/stats/what-eo-is/

「一旦,感染巣が制御されたら4~7日間の抗菌薬投与を推奨」という記載があり,これは北米外科感染症学会(SIS-NA)/米国感染症学会(IDSA)による2010 年のガイドライン(Dellinger RP, et al:Surviving Sepsis Campaign;International guidelines for management of severe sepsis and septic shock:2008. Crit Care Med 36:296-327, 2008)を引用したもので,急性胆管炎・胆囊炎に特異的なエビデンスを背景にしたものではないことが記載されている.

すなわち急性胆管炎・胆囊炎の最適な治療期間については十分なエビデンスがなく,胆道閉塞の原因が十分にコントロールされているかどうかにより治療期間が決まる,という結論が妥当である.ただし,グラム陽性菌による血流感染を合併している場合には感染性心内膜炎や微小膿瘍を起こしやすいため,2 週間以上の抗菌薬投与が勧められている.

表題の「ドレナージできている菌血症事例でも5日間の抗菌薬投与で十分か」については,背景を考慮すると5日間と断定的に言うことはできないと考える.

横須賀 くりはま 花の国 https://www.kanagawaparks.com/kurihama/

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