写真のカモメはオウム病と直接の関係はございません。
オウム病の定義
オウム病クラミジアChlamydophila(Chlamydia)psittaci を病原体とする呼吸器疾患である。
歴史
C. psittaciの感染症であるオウム病は、1879年にスイス国内の7人が熱帯の鳥類のペットから肺炎を発症した事件で最初に発見された。このとき、病原体は特定されなかった。関連する細菌種であるChlamydia trachomatisは1907年に報告されたが、人工培地では増殖できなかったため、ウイルスであると推定された。
1929年から1930年の冬にて米国と欧州でオウム病のパンデミックが発生した。アルゼンチンから輸入されたボウシインコが原因であり、その死亡率は全体で20%であり、妊婦では80%に達した。C. psittaciは1930年にオウム病の原因菌として同定されたが、1960年代に電子顕微鏡で観察されるまで細菌であることは確認されなかった[5]。
臨床的特徴
主にオウムなどの愛玩用のトリからヒトに感染し、肺炎などの気道感染症を起こす。1~2週間の潜伏期の後に、突然の発熱で発病する。初期症状として悪寒を伴う高熱、頭痛、全身倦怠感、食欲不振、筋肉痛、関節痛などがみられる。呼吸器症状として咳、粘液性痰などがみられる。軽い場合はかぜ程度の症状であるが、高齢者などでは重症になりやすい。胸部レントゲンで広範な肺病変はあるが、理学的所見は比較的軽度である。重症になると呼吸困難、意識障害、DICなどがみられる。発症前にトリとの接触があったかどうかが診断のための参考になる。
確定診断
検査方法
検査材料
分離・同定による病原体の検出
PCR法による病原体の遺伝子の検出→咽頭拭い液、喀痰、血液
間接蛍光抗体法による抗体の検出(単一血清でIgM抗体の検出若しくはIgG抗体256倍以上、又はペア血清による抗体陽転若しくは抗体価の有意の上昇)→ *血清
*注釈 間接蛍光抗体法による抗体の検出(単一血清で IgM 抗体の検出若しくは IgG 抗体 256 倍以上、又はペア血清による抗体陽転若しくは抗体価の有意の上昇)
補体結合反応(CF)のみが記載してある場合は届出基準を満たさない。CF 法は他のクラミジア種と交差反応があるため鑑別できない。
東京都感染情報センター こちら。
クラミジアの分類 [1-3]
1960年代に細菌であることが確認されたC. psittaciは、従来の科や属には分類されず、クラミジア科クラミジア属が新設された。1999年まではこの種がこの科と属における唯一の帰属種とされていた。
1980 年後半までクラミジアは C. trachomatisと C. psittaci の 2 種類しか知られていなかった.しかし,1999 年にクラミジア目には 4つの科(Family)があることがわかった。
- クラミジア科Chlamydiaceae https://en.wikipedia.org/wiki/Chlamydiaceae
- パラクラミジア科Parachlamydiaceae https://en.wikipedia.org/wiki/Parachlamydiaceae
- シムカニシウム科Simkaniaceae https://en.wikipedia.org/wiki/Simkaniaceae
- ワドル科 Waddliaceae https://www.sciencedirect.com/topics/immunology-and-microbiology/waddliaceae
さらにクラミジア科はクラミジア属のChlamydiaとChlamydophila(新設)の2つに分かれ、
- Chlamydia 属にはtrachomatis,muridarum,suisの 3 種とされた。
- Chlamydophila属にはpneumoniae,psittaci,pecorum,abortus,caviae,felisの 6種とされた。
このときC. psittaciはクラミドフィラ属に割り振られ、Chlamydophila psittaciに名称変更された。しかし、この分類変更はのちに意義が申し立てられ、全ての微生物学者に受け入れられたり採用されたりはしなかったため、クラミドフィラ属は廃止された。クラミドフィラ属に関する表記は、”As of 2013, Chlamydophila was still mentioned in some databases, but controversial.”と記載されている。
C. psittaciを含む、クラミドフィラ属に割り振られた9種全てが元のクラミジア属に戻った 。2013年にクラミジア属に新種が追加され、2014年にはさらに2種が追加されている。
かつてC. psittaciとみなされていた3つの菌株は、今日ではそれぞれクラミジア属の別個の種、C. abortus(ウシやヒツジに流産を起こす。ヒトにも感染性がある)、C. felis(ネコクラミジア)およびC. caviaeに分類されている。
クラミジアの生活環
クラミジアの増殖環クラミジアは偏性細胞寄生性の病原体で,細胞の中でエネルギーを摂取しながら増殖するという特殊な形態をとる.基本小体(elementary body; EB)が細胞内に取り込まれ,封入体の中で分裂して網様体(reticulate body; RB)となり,網様体が成熟して中間体となり,最終的には封入体の中で 3つの形態が混在する.
至適細胞の中では C. psittaci は約 48 時間,C. pneumoniae と C. trachomatis は約 72 時間で成熟する.抗菌薬,抗生物質が効くのは網様体の時期のみである.
感染した細胞に封入体を形成し、ギムザ染色で暗紫色に染まる.電子顕微鏡では、欧米の分離株の多くは EB の膜が洋ナシ状を示すが,日本の分離株にはこのような形態を示すものはほとんどない.ただし,この形態の違いは病原性とは関連がない.
遺伝子構造 [5, 6]
C. psittaci 6BCのゲノム配列について
Chlamydia psittaci 6BCは1個の環状染色体に1.172 Mb、7553 bpのプラスミドを持つ。細菌の染色体は967個のコーディング配列(CDS)を含み、プラスミドは、8つのコード化配列を持つと推測されている。
オウム病の発生状況
わが国におけるヒトのオウム病の発生状況についてみると,1999 年4月の感染症法施行以前は異型肺炎の中に含まれ,市中肺炎の2~3%と推測されていた。届け出が始まった 1999 年4月以降は,1999 年(4~ 12 月) に 23 件,2000 年 に 18 件,2001 年に 35 件,2002 年に 54 件,2003 年に 44 件,2004 年に 39 件の届け出があり(図6),2005 年は6月までに 25 件の届け出がなされている 18)。月別の発生数をみると5~6月が多い。年代別では 50代をピークとし,幅広い年齢でみられる。成人に多く,小児は少ない。ほとんどの症例が鳥類を感染源としている。推定感染源ではインコ類が多く,届け出例の約 60%である。感染源が不明だったり,記入がない例が約 20%あった。ヒトからヒトへの伝搬はないわけではないが,極めて少ない。家族発生の場合でも,同一の感染源からの感染による。感染源となったトリも発症している場合が多い。まれに鳥との接触や関わりを見いだせない症例が報告されているが,過去の事例であり C. pneumoniae 感染症との鑑別が必要であろう。
動物の展示施設で罹患したと考えられるオウム病の症例としては,1996 年に姫路のサファリパークを訪問したことによるオウム病の単発例が報告されている。2001 年の6月に発生した動物園獣医師および飼育員におけるオウム病は予想外の発生であった。この動物園における感染様式は不明である。2001 年の 11 ~ 12 月に発生した事例では,患者数 17 名と報告例としては最大規模の集団発生であった。しかし,動物の展示施設の訪問者は地理的に分散しているため,集団発生があったとしても把握しにくいと考えられる。したがって,姫路の例においても,実際は集団発生があった可能性は否定できない。
妊婦がオウム病に罹患すると重症化が示唆される報告がある 厚生労働省
一般的にオウム病患者は、鳥類等への曝露により病原体に感染する。感染源として推定される動物として、インコ、ハトが多く、特に女性においてはインコが多かった。ただし、明らかな動物曝露歴が確認されていない症例もあった。
臨床的には、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛といったインフルエンザ様の症状から、肺炎、意識障害やDICを呈した症例まであり、多様な臨床像、重症度を示した。
これまでに、1例の妊婦死亡例が感染症発生動向調査に報告された。なお、感染症発生動向調査においては妊娠の有無を記載する項目はない。
検索した範囲では、英国、米国、フランスにおいて、妊婦におけるオウム病は十数例が報告されている。臨床経過の確認できた5例のうち、1例の死亡が確認され、他の1例も重症であったと報告されている。また、英国、米国の報告では羊などの牧場の家畜が感染源となったことが指摘されている。現時点では、妊婦がオウム病クラミジアに感染すると重症化するのか、死亡リスクが高まるのかについては、明らかではない。しかしながら、国内外でオウム病に罹患した妊婦の死亡例が報告されていることから、妊婦は感染源となりうる鳥類等への接触を避けるよう配慮するべきである。
Gestational psittacosis: an emerging infection pdf. Lancet Microbe. 2022 Oct;3(10):e728. doi: 10.1016/S2666-5247(22)00191-4. Epub 2022 Jul 8. Gestational psittacosis: an emerging infection Ourlad Alzeus G Tantengco. PMID: 35817065 DOI: 10.1016/S2666-5247(22)00191-4
アブストラクト
ヒトオウム病は、Chlamydia psittaciによるまれな感染症で、鳥や家禽との密接な接触により感染する。しかし、最近、中国でC psittaciのヒト-ヒト感染を報告した。C psittaciは市中肺炎の患者から検出され、これらの患者の半数はアヒル肉加工工場の従業員であり、その他の患者は鳥や家畜との接触はなかった。医療従事者や家族など、これらの患者の身近な人も呼吸器症状を発症し、C psittaciの陽性反応が陽性であった。ヒトからヒトへの感染は、医療従事者や妊婦を含む者へのリスクとなる。妊婦の本症はまれであるが、母体および胎児の重大な障害を引き起こす可能性がある。本症は通常、発熱、インフルエンザ様症状、ときに白血球数減少、血小板減少をきたす。C psittaciの診断検査(C psittaciの分離、血清検査、C psittaci DNAの検出など)は、特に発展途上国では、ほとんどの施設でルーチンに利用できない。妊婦症例への治療には迅速かつ正確な診断が欠かせず、(胎児への影響を考慮して)妊婦に対してはエリスロマイシンが推奨される。本症の正確な疫学は不明で、妊婦は、鳥や家畜、これらの動物と直接接触する農家、その他、飛蚊症に感染している可能性のある人々との接触を避けるべきである。
参考文献
オウム病.厚生労働省.
東京都感染情報センター pdf
福士秀人.オウム病.モダンメディア 51巻7号 2005〔話題の感染症〕 149-159. pdf
岸本寿男.クラミジア肺炎.MBC Forum. 2006. pdf
- Borel, N. and G. Greub, International Committee on Systematics of Prokaryotes (ICSP) Subcommittee on the taxonomy of Chlamydiae, minutes of the closed meeting, 10 September 2020, via Zoom. Int J Syst Evol Microbiol, 2021. 71(2).
- Greub, G., International Committee on Systematics of Prokaryotes Subcommittee on the taxonomy of Chlamydiae. Minutes of the closed meeting, 31 March 2015, New Orleans, USA. Int J Syst Evol Microbiol, 2017. 67(2): p. 512-513.
- Everett, K.D., R.M. Bush, and A.A. Andersen, Emended description of the order Chlamydiales, proposal of Parachlamydiaceae fam. nov. and Simkaniaceae fam. nov., each containing one monotypic genus, revised taxonomy of the family Chlamydiaceae, including a new genus and five new species, and standards for the identification of organisms. Int J Syst Bacteriol, 1999. 49 Pt 2: p. 415-40.
- Ravichandran, K., et al., A comprehensive review on avian chlamydiosis: a neglected zoonotic disease. Trop Anim Health Prod, 2021. 53(4): p. 414.
- Schofl, G., et al., Complete genome sequences of four mammalian isolates of Chlamydophila psittaci. J Bacteriol, 2011. 193(16): p. 4258.
- Voigt, A., G. Schofl, and H.P. Saluz, The Chlamydia psittaci genome: a comparative analysis of intracellular pathogens. PLoS One, 2012. 7(4): p. e35097.
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