HIV検査の現状:HIV検査はスクリーニング検査と確認検査がある。現在の日本では有病率が低いため、その検査はオプトインによる説明と同意が必要。

内科・感染症

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HIVスクリーニング検査のポイント

  • 米国では,本人の拒否がなければ13~64歳の検査歴のない病院受診者の全員にHIVスクリーニングを行う(オプトアウト)ことが推奨されている。
  • 日本では現在,本人に説明し同意を得てから検査実施が原則である(オプトイン)。
  • 同意を得ることなく行われたHIV検査で解雇など実生活上の不利益を被る事例や、ある医療施設ではHIV感染者の診療拒否がみられるためである。
  • HIV感染症の検査は、HIVスクリーニング検査と確認検査によって確認する。

HIVスクリーニング検査および確認検査の流れ

はじめに

HIV/AIDSとは

1981 年,米国で特殊な免疫不全による非日常的な感染症・腫瘍(ニューモシスティス肺炎,サイトメガロウイルス感染症,播種性非結核性抗酸菌感染症,Kaposi肉腫など)を発症して死に至る病態は後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome:AIDS)として報告された。

Pneumocystis pneumonia–Los Angeles. Centers for Disease Control (CDC). MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 1981 Jun 5;30(21):250-2. PMID: 6265753. pdf.

CDC こちら

HIVのウイルス学

HIVのウイルス学的特徴 こちら

HIVは直径約110 nmのRNA型エンベロープウイルスで、その粒子内部に約9,500塩基からなる2コピーの(+)鎖RNAゲノム、逆転写酵素やインテグラーゼなどのウイルス蛋白質を含むコア構造とそれを取り囲む球状エンベロープによって構成される。

ウイルス粒子の外側を構成するエンベロープには、糖蛋白質(glycoprotein) gp120とgp41の三量体からなる5-10個程度のスパイクが外側に突き出していて、標的細胞であるヘルパーT細胞やマクロファージ表面に発現しているCD4レセプターとケモカインレセプターCCR5またはCXCR4に結合して感染・侵入する。

HIV遺伝子の構造と機能 こちら

HIVは血清学的・遺伝学的性状の異なるHIV-1とHIV-2に大別される。

HIV遺伝子は、両端に存在するLTR (long terminal repeat)、gag, pol, envの3個の主要な構造遺伝子、tat, revの2個の調節遺伝子、nef, vif, vpr, vpu (HIV-1のみ), vpx (HIV-2のみ)の4個のアクセサリー遺伝子から構成され、複雑かつ精巧な遺伝子発現調節機構によって制御されている。

疫学

世界におけるHIV感染率

世界保健機関(World Health Organization, WHO)は 、2023年現在、世界の15歳から49歳の年齢層の約 0.6%がHIV罹患していると報告している.

(WHO https://www.who.int/data/gho/data/themes/hiv-aids#:~:text=An%20estimated%200.6%25%20%5B0.6%2D,considerably%20between%20countries%20and%20regions.)

統計学的に、2023 年におけるHIV/AIDS感染は、

  • 全世界で、3,990万人 のヒトがHIVに感染している。
  • 毎年、130万人 のヒトが新規にHIVに感染している。
  • 年間、63万人 のヒトが、AIDSが原因で、あるいはAIDS関連死している。
  • 現在、3,070万人のヒトが、HIV感染に対して治療が行われている。
  • 1981年以来のHIV出現後、8,840万人のヒトがHIVに感染している。
  • 1981年以来のHIV出現後、4,230万人のヒトがAIDSが原因で、あるいはAIDS関連死している。

アフリカのHIV感染状況

(UNAIDS.  https://www.unaids.org/en/regionscountries/countries/southafrica . Accessed Dec 8, 2024)

最も感染者数の多い地域はサハラ砂漠以南のアフリカであり,成人の17.1%がHIVに感染していると推定されている.

日本におけるHIV感染状況

(国立感染症研究所. HIV/AIDS 2023年. https://www.niid.go.jp/niid/ja/?option=com_content&view=article&id=12943:536t&catid=547&lang=ja-JP

日本における2023年の新規報告数は, HIV感染者669人(男性649, 女性20), AIDS患者291人(男性282, 女性9)であった。

HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数に占めるAIDS患者の割合は30.3%(日本国籍: 32.5%, 外国国籍21.1%)であった。HIV感染者669人中, 日本国籍者は523人(男性511, 女性12), 外国国籍者は146人(男性138, 女性8), AIDS患者291人中, 日本国籍者は252人(男性247, 女性5), 外国国籍者は39人(男性35, 女性4)であった。

日本国籍男性のHIV感染者年間新規報告数は前年より4件減少し, AIDS患者年間新規報告数は前年より45件増加した。外国国籍男性のHIV感染者年間新規報告数は前年より44件増加し, 過去最多となった。

検査

HIVスクリーニング検査

米国では,本人の拒否がなければ13~64歳の検査歴のない病院受診者の全員にHIVスクリーニングを行う(オプトアウト)ことが推奨されている。

Ronald Bayer. N Engl J Med. 2013 Mar 7;368(10):881-4. doi: 10.1056/NEJMp1214535. Epub 2013 Feb 20.Routine HIV testing, public health, and the USPSTF–an end to the debate. PMID: 23425134. こちら

日本ではHIVスクリーニング検査を実施する場合は説明と同意取得が求められる

一方、日本では現在,本人に説明し同意を得てから検査を行う(オプトイン)のが原則である。

(厚生労働省. 「HIV検査の実施について」の改廃について(HIV抗体検査に係る迅速な検査方法の導入等) 平成16年10月29日付疾病対策課長通知抜粋 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3842&dataType=1&pageNo=1 )

B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、梅毒のスクリーニングは実際に正確な説明・同意取得がなく、ルーチンで行われているのが現状で、HIVのみ同意・取得が必要である理由はないが、同意なしで実施されたHIV検査で陽性と判明した場合に、仕事を解雇されたなど実生活上の不利益を被ることや、ある医療機関ではHIV感染者の診療拒否が見られるのが現状である。同意は書面によるものである必要性はない。説明は口頭でも良いが、その際には説明および同意を得たことを必ず診療録に記載する。

HIV検査の際に同意取得が必要であることは,煩雑で、検査実施の機会、アクセス性が低下するかもしれないが、前述のような理由がある。また,HIV検査の必要性を説明されたことがきっかけで別の検査機会につながるかもしれない。可能性があれば説明したうえで、積極的に検査を勧める。

スクリーニング検査で陽性となった場合、本当の陽性である確率はどのくらいあるのか?

HIV検査相談マップ. こちら

スクリーニング検査が陽性となった人の中で「真の陽性(感染者)」が占める割合と偽陽性が占める割合は、受検者集団の偽陽性率と感染者の存在率、また使用する検査法によって異なる。保健所検査の受検者における感染者の割合は約0.3%である。一般的にスクリーニング検査試薬(通常検査)を用いた場合は、約0.3%の偽陽性が発生するため、スクリーニング検査で陽性となった人のうち、50%が真の陽性となる。迅速スクリーニング検査試薬を用いた場合は、約1%の偽陽性が発生するため、スクリーニング陽性者の約23%が真の陽性となる計算である。

日本におけるHIV感染者数および有病率から考えるHIVスクリーニング検査の位置付け

1985~2023年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)は, HIV感染者24,532人(男性21,898, 女性2,634), AIDS患者10,849人(男性9,940, 女性909)である。

2023年の日本の人口が1億2400万人(総務省 https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html )で、HIVの有病率は約0.019%と推計できる。通常、スクリーニング検査を行い有効な検査前確率が得られる。しかし前述のように低有病率の日本において、種々の検査前診断として低いため、日本におけるHIVルーチン検査は前述のような偽陽性などを検出してしまう弊害が多い、というのが実情である。

以上のことから、

  • 術前検査でHIV検査を行う場合、特にHIV感染症のリスクがなければ検査前確率は低い。
  • 例えHIV抗原/抗体検査が陽性となったとしても偽陽性である可能性の方がある(計算上、真の陽性は23%)。
  • ウエスタンブロット法(WB)とHIV 核酸増幅法(NAT)による確認検査で偽陰性を確認、更に2週間後に再検査をする必要がある。つまり、最終確定まで2週間以上掛かる。
  • またHIV-2感染症(通常は西アフリカに多い)の可能性がある場合には、HIV-2 NATやWBを検査する必要があり、より時間がかかる。

HIVスクリーニング検査後の確認検査は重要である。

確認検査には、HIV Western blot (WB)法とRNA ウイルス量がある。

Western blot法

HIV-1の抗体確認キットに、ラブ ブロット1がある。pdf.

臨床的意義

HIV抗体の確認試験として用いられる方法の1つにウエスタンブロット(Western blot: WB)法がある。本法は、電気泳動により分画したウイルス構成蛋白をニトロセルロース膜に転写し、検体中の抗体と反応させて検出する方法であり、各種構成蛋白に対する特異抗体の存在を確認することができる。本品は、HIV-1蛋白を用いたウエスタンブロット法の試薬であり、スクリーニング検査で生じた偽陽性などの確認ができると同時に、各蛋白特異抗体の推移を見ることにより、HIV-1感染の経過観察が可能である。

出現するバンドの名称、対応する遺伝子、性質およびバンドの特徴

バンドの判定基準

陽性:2本以上のENVバンドを認める。HIV-1におけるENVは、GP160, GP110/120, GP41のいずれかまたは、すべて陽性となる。

判定保留:陰性、陽性と判定されない。

陰性:HIV-1特異バンドが出現しない。

HIV RNA ウイルス量、real-time PCR法

Alinity® m システムHIV-1 こちら

本品は HIV-1 RNA の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR 法)による cDNA 合成と増幅、及び核酸ハイブリダイゼーションを用いたヒト血漿中のHIV-1 RNAを測定するキットであり、6つの主な反応ステップから成り立っている。

  1. 検体からの HIV-1 RNA の抽出・精製
  2. 逆転写反応による HIV-1 RNA からの cDNA の合成:下図でRT反応を起こさせる。
  3. ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による HIV-1 RNA の増幅:下図①②
  4. 標識プローブと増幅 DNA とのハイブリダイゼーション:下図③
  5. 蛍光強度の測定:蛍光プローブで結合しており、これが蛍光を発することで測定できる::下図③
  6. HIV-1 RNA 濃度の計算:下図③

PCR検査とは あおぞら研究所 こちら

最後に、以下のマニュアルは良い参照資料である。国立感染症研究所 後天性免疫不全症候群(エイズ) /HIV 感染症 病原体検出マニュアル、こちら

冒頭の写真は、奥秩父の三十槌の氷柱。こちら

アンコールワット。東南アジア観光情報サイト。こちら

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