結核菌のグラム染色。写真中央に、ゴースト状に観察されるグラム染色難染性の細菌(桿菌)を認める。
参考文献. Ghost mycobacteria on Gram stain. J Clinical Microbiology. pdf.
はじめに 結核とは
結核は空気感染による感染性疾患であるため迅速な検出が求められる.しかし,結核菌は遅発育菌であるため培養法では陽性結果を得るまでに週単位(4~8週)で期間が必要で,感染性が高いが,その培養検出までの迅速性に劣る.
その問題を解決できる検査が遺伝子診断法=核酸増幅検査法(PCR法またはLAMP法)である.PCRは,結核菌の核酸を増幅し,菌の存在を確認する検査であり,臨床検体から核酸の検出まで数時間で迅速に行うことが可能である.ただし,PCRの特異度は90%以上だが,感度は「塗抹陽性検体で100%近い感度」であるが,「塗抹陰性検体では培養法と感度が同等か,またはやや劣る」との報告が多い.つまり唾液等が多い喀痰検体は迅速診断では,その感度にばらつきがある.よって,結核の正確な診断は,通常塗抹法や遺伝子診断法であっても,喀痰の質に左右されると言って良い.
我が国における結核の発生動向. 厚生労働省資料. 2023年 結核登録者情報調査年報集計結果について.厚生労働省. こちら。
我が国における結核は,2023年に,新規結核患者登録者数は10,096人で,前年より139人減少している.
結核による死亡者数は年間約2100人である.
2023年の結核罹患率(人口10万対)は8.1であり,前年の8.2より減少し,結核低(中)まん延の水準である罹患率10.0以下の状態が継続している.
喀痰塗抹陽性肺結核の患者数は3,524人で,前年より179人減少している.
喀痰塗抹陽性肺結核の罹患率(人口10万対)は2.8であり,前年の3.0より0.2減少している.
喀痰塗抹陽性肺結核の患者が全体に占める割合は34.9%で,前年から1.3ポイントの減少となっている.
結核菌の塗抹検査
痰などの検体を抗酸菌に特異的な方法で染色し,これを顕微鏡で直接観察する検査法である.
主な染色法にはチール・ネルゼンZiehl-Neelsen染色(Z-N染色)または蛍光染色が用いられる.ZN染色より蛍光染色がより感度が高いが,喀痰中の異物も蛍光法で偽陽性となることがあるため,蛍光法での陽性結果は,必ずZ-N染色でも陽性菌を確認する.
蛍光染色は神奈川県衛生研究所。こちら。
顕微鏡で菌が見えたら陽性と判定し,その菌量に応じて1+,2+,3+と判定する.過去には検鏡された結核菌数に応じて,「ガフキーGaffky X号」と表されていたが,再現性に乏しく(見る者によってばらつきが大きいため),現在は併記に留まる.
一般的に,Z-N染色を実施した場合に,ガフキー3号(毎視野に必ず1個陽性)は多くの検鏡者でも診断可能であるが,初級者はガフキー2号(数視野に1個陽性)を見逃さないようにするのが重要である.
ガフキー号数の表記。こちら。
結核菌の遺伝子検査
結核遺伝子検査, PCRで代表的なものにXpert MTB/RIFがある.本法は日本では 2016 年に販売開始された.
Xpert MTB/RIF の操作工程は,
1) カートリッジ型の試薬を用い,カートリッジ内で核酸抽出からリアルタイム PCR 反応および検出までが全自動で完結する.
2) 適応検体種は喀痰に限られるが,NALC-NaOH 処理前の検体でも分析可能である.(喀痰の適切な検体処理で,喀痰を消化・均質化し,混在する細菌を殺して抗酸菌を選択的に培養することを目的として行われる)
3) 喀痰に Xpert MTB/RIF 用の検体前処理液を添加し振動撹拌して 15 分間反応させた後に,ピペットで検体を試薬カートリッジに添加し,Gene Xpert システム(機器)にセットすれば全自動で約 120 分で結果が判明する.
4) 分析モジュール数に応じて 2 検体~16 検体までを個別に測定が可能である.
使用に関する添付文書。こちら。
販売元、Beckman Coulter. こちら。
さらに迅速に結果が得られるPCRも開発されている。
感度を向上させ測定時間を 80 分以下に短縮した Xpert MTB/RIF ultra が実用化され,WHO も推奨しており,日本でも早期に利用可能となることが期待されている.こちら。
冒頭の写真は屋久島。こちら。
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