渡航者のためのワクチン: もしカメルーンに渡航するなら黄熱ワクチンは必須。A型肝炎、B型肝炎、破傷風、狂犬病、ポリオ接種を推奨。

内科・感染症

海外渡航者のためのワクチンの必要性
 ワクチンを受ける理由は2つある。第一に渡航先の外国が義務として指定しているものがある。主にアフリカや南米の熱帯地域の国では,入国や乗り継ぎの際に黄熱の予防接種証明書の提示が求められる場合がある。
 第二に現地で感染しないための任意接種である。予防接種を受けることで予防できる病気は限られているが,感染症にかかるリスクを下げることができる。日本渡航医学会は『海外渡航者のためのワクチンガイドライン2010』を作成し,その目的を表1に示す。渡航先の感染症情報を収集し,それぞれの予防接種について理解した上で,どの予防接種を受けるかを決める必要がある。

海外渡航者のためのワクチンの目的
1.渡航者の健康を守るために予防接種が有効かつ安全 に実施されること
2.接種対象が渡航者であっても接種の場は日本国内であり,国内諸規定に則った予防接種について解説すること
3.わが国では未承認・適応外・適応対象が制限されているワクチンについて,世界の標準的指針に関する情報提供をすること
4.国内未承認ワクチン使用時など心得ておくべき法律的事項について情報提供を行うこと
5.上記1~4により,海外渡航者に対する適切な予防接種が普及すること

アフリカ赤道付近と南米の一部へ渡航する際には黄熱ワクチンが必要

黄熱はヒト ~蚊~ヒトの感染サイクルが成立している。主な媒介蚊はネッタイシマカ(Aedes aegyptiであり、後述のごとく都市型の感染サイクルを形成する。一度都市部に侵入すると、短期間で大流行する可能性があり、以下の理由で脅威となる。1) 患者隔離や治療では流行を止められない, 2) 媒介蚊が都市に定着している国では「侵入=流行リスク」となる、3) 現在でも致死率が高い(重症例で20–50%)。よって「患者を持ち込ませない」以外に現実的な防御策がない黄熱は「蚊媒介+高致死率+都市型流行+完全ワクチン」という特殊な事情がある。そのため黄熱ワクチンは流行地域において入国の際に必須ワクチンとなっている。

黄熱ワクチンは、原則として検疫所または特殊医療機関のみが接種を行っており、総合病院や大学病院でも接種はできない。また、検疫所には事前の予約が必要である。こどもとおとなのワクチンサイト、こちら

Stamaril 黄熱ワクチン1人用の添付文書, こちら

黄熱と言えば、野口英世である。野口は ロックフェラー医学研究所の派遣で中南米、エクアドル(1918年~)で、黄熱の研究を開始した。黄熱と類似するワイル病(レプトスピラ)を特定し、ワクチンを開発したと発表し、南米での黄熱病収束に貢献した。このワクチンは黄熱には効果がなく、実は自然軽快を見ていた可能性がある。
その後1927年、アフリカで真の黄熱病の病原体を突き止めるため渡航した。しかし、研究中に自身が黄熱病に感染し、1928年、(現ガーナ共和国で)51歳で亡くなる。

野口英世記念館、こちら

黄熱は,黄熱ウイルス(フラビウイルス科フラビウイルス属)による感染症であり,宿主はヒトとサルなどの霊長類である。ネッタイシマカ(Aedes aegypti)などの蚊に刺咬されることにより,ヒトは感染する。

流行地域は,アフリカと南アメリカの一部で,赤道を中心として南北約20度の範囲内である。黄熱の正確な患者数は明らかでないが,世界保健機関(WHO)の試算では,年間84,000~170,000人の患者が発生し,死者は最大で60,000人に及ぶとされている。

黄熱ウイルスは、Flaviviridae科 Flavivirus属に属する、エンベロープを有する+鎖一本鎖RNAウイルスであり、ICTV分類ではRealm Riboviriaに位置づけられます。

分類学的・ウイルス学的特徴
ゲノム:一本鎖RNA(+鎖 ssRNA、非分節)
エンベロープ:あり
カプシド:正二十面体
複製:細胞質内で行われ、ウイルス自身のRNA依存性RNAポリメラーゼを用いる
Baltimore分類:Group IV(+ssRNA)

 黄熱はエンベロープを有する直径40~50 nmの一本鎖RNAウイルスで,フラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスである。約11 kbの一本鎖RNAは,コアタンパク質より構成されるカプシドに被われ,その周りを糖たんぱく質(Eタンパク質)と膜タンパク質(Mタンパク質)から構成されるエンベロープによって被われている。Eタンパク質はウイルスの宿主親和性,病原性,免疫原性において重要な役割を果たす。また,黄熱ウイルスは,有機溶媒処理56℃30分の熱処理あるいは紫外線処理により容易に不活化される。

冒頭の写真は黄熱ウイルスの電子顕微鏡。Wikipedia, こちら

図1 アフリカ赤道周辺における黄熱の流行地域 図はCDC, こちら

図2 アフリカ流行地域における黄熱ウイルスのライフサイクル。CDC, こちら。アフリカにおける黄熱のライフサイクルは、主に森林型(ジャングル型)、中間型(サバンナ型)、そして都市型という3つの異なる伝播環(サイクル)が存在する。

図3 南アメリカにおける黄熱の流行地域 図はCDC, こちら

図4 南アメリカにおける黄熱ウイルスのライフサイクル。CDC, こちら。南米における黄熱のライフサイクルは、主に森林サイクルと都市(アーバン)サイクルの2つの主要な伝播環が存在する。アフリカとは異なり、中間(サバンナ)サイクルは南米では確認されていない。

図5 写真は、黄熱ウイルスを媒介するネッタイシマカ、Aedes species mosquitoes, Degue fever, CDC, こちら

図6 写真は、黄熱ウイルスを媒介するへマゴガス、Haemagogus species mosquitoes, Wikipedia, こちら

黄熱を媒介する主な蚊はネッタイシマカ(Aedes aegypti)やHaemagogus属(ハエマゴグス属)などシマカ(Aedes)属の蚊である。これらがウイルスを保有するサルやヒトを刺すことで感染が広がる。黄熱以外にデング熱やジカウイルス感染症と同様に、これらの蚊(特にネッタイシマカ)は都市部や森林周辺で繁殖し、森林型・中間型・都市型という3つの異なる感染サイクルを通じて人間に病気を伝播する。

黄熱ウイルスは、熱帯雨林(森林)型サイクルは、森林内での主にヒト以外の霊長類と蚊の間での伝播であり、アフリカではAedes africanus、南アメリカではHaemagogus属およびSabethes属の蚊が媒介する。

都市型サイクルは、ヒトと蚊の間での伝播で、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)が媒介蚊として知られている。

中間(サバンナ)型サイクルはアフリカのジャングルの周辺境界部でみられ、ヒト-蚊-ヒト以外の霊長類の間での感染環で維持されている。いずれも蚊を媒介して感染が成立し、ヒトの体液等からの直接感染は起こらないとされている。

参考文献

菊池均. 海外渡航者のためのワクチン接種. 診断と治療 106(11): 1333-1340, 2018.

International travel and health, WHO, こちら

黄熱のリスクアセスメント, 国立健康危機管理機構 JIHS, こちら

福島慎二. 黄熱. 小児科臨床 70(増刊): 2159-2164, 2017.

押谷仁. 蚊媒介感染症に関する最近の話題 黄熱. 臨床と微生物 44(3): 257-262, 2017.

写真は長良川。

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