5番染色体はヒトの全DNAの約6%(約1億8100万塩基対)を占める巨大な常染色体であり、約900個の遺伝子を含む。
短腕(5p)の欠失は「猫鳴き症候群(5p-症候群)」を引き起こし、特徴的な泣き声、精神運動発達遅延、特徴的顔貌(小頭症など)を起こす。
長腕(5q)の欠失は、主に高齢女性に見られる骨髄異形成症候群の「5q-症候群」に関与する。

図1 骨髄異形成症候群(MDS)で認められた5番染色体長腕の欠失。A Case of Myelodysplastic Syndrome Associated with an Isolated del(5q) Chromosomal Abnormality Showing Poor Prognosis. 文献はこちら。

図2 骨髄異形成症候群(MDS)で認められた5番染色体長腕の欠失した部分。提示例の切断点(点線)と、単独のdel(5q)を伴うMDSの通常の切断点(実線)。A Case of Myelodysplastic Syndrome Associated with an Isolated del(5q) Chromosomal Abnormality Showing Poor Prognosis. 文献はこちら。
染色体のp腕(短腕)とq腕(長腕)は、動原体(セントロメア)を境に分かれる2つの腕の部分である。フランス語のプチ petit(小さい)に由来するpは短い腕、qはプチ(p)の次で、列を意味するキュー queueで、長い腕を指す。これらは遺伝子の位置を示す際に「14q21」のように使われ、セントロメアからの距離やバンド構造に基づく。
5番染色体長腕欠失(5q-)と骨髄異形成症候群
5q-症候群:5番染色体長腕欠失(5q-症候群)
病態: 骨髄異形成症候群(MDS)のサブタイプ。5番染色体の長腕(q腕)の一部(5q13-q33の領域)が欠失。MDSや急性骨髄性白血病(AML)で見られる染色体異常である。高齢女性に多い。
疫学
欧米では5q-を伴うMDSは全MDSの20%程度を占めるとされているが,その全てが5q-症候群に該当するわけではなく,5q-症候群の頻度を明確に述べた記載は少ない.NIHのwebsiteによれば5q-症候群の頻度は全MDSの15%と記載されている.一方,わが国ではMDSの1~2%程度とされている.他のMDS病型と異なり血小板数は増加することが多い。また女性に多いことが特徴である.他の病型よりは予後良好である。急性骨髄性白血病(AML)への移行率は10%以内とされる.
WHO 分類2022およびICC 2022による染色体異常を伴うMDS
MDSにおいて特定の染色体異常は、それ単独でMDSを確定できるものはない。すべての染色体異常が「特異的」ではないが、形態学的な異形成と組み合わせた総合的な診断が原則である。
その中でも、del(5q) は特異的な疾患単位とみなされる。−7 / del(7q)もMDSに特異性が高いとされる。複雑核型は予後が極めて不良な因子である。
一方で、以下の染色体や遺伝子異常が認められた場合は、MDSではなくAMLまたはその他の疾患を考える。
t(15;17) →APL
t(8;21) →AML with RUNX1::RUNX1T1
inv(16) →AML with CBFB::MYH11
BCR::ABL1 →CML or AML
KMT2A再構成 →AML
MDSは多彩・多様な疾患群の集合体と見なされているが,その中にあって単独の染色体異常として片アリルの5番染色体長腕の中間欠失(5q-)を伴う症例は比較的均質な病像を示し,古くから5q-症候群と呼称されている。
WHO分類においては、myelodysplastic syndrome(MDS)with isolated del(5q)(5q-症候群)としてMDS中の独立病型とされている.MDSの中でこの病型の分子病態研究は進んでおり、サリドマイドthalidomide誘導体のレナリドマイドlenalidomideが奏効する。
5q-症候群の分子病態
5q-症候群では5番染色体5q32-33上の共通欠失領域(common deleted region:CDR)の片アレル欠失が特徴的所見である.同領域に局在する40個の遺伝子のうち,以下の遺伝子が病態に関与するとされる。
RPS14 →5q33 →赤芽球障害
CSNK1A1 →5q32 →Wnt制御の低下。治療薬レナリドミドの標的部位
EGR1 →5q31 →腫瘍を抑制するが、欠失で造血異常が起こる
APC →5q22 →Wnt/β-catenin抑制、腫瘍抑制
TERT →5p15 →テロメラーゼ、造血幹細胞を維持する
NPM1 →5q35 →AML関連(本座位の変異は11q23が有名)
5q-症候群における血小板増多と減少
5q症候群では、血小板増多症は一般的で、血小板減少症は一般的ではないが、血小板減少をきたす症例は予後不良が示唆される。
Thrombocytopenia at diagnosis as an important negative prognostic marker in isolated 5q- MDS (IPSS low and intermediate-1) こちら。
MDS with 5q- deletionに血小板減少をきたした症例。 A Case of Refractory Thrombocytopenia with 5q Deletion: Myelodysplastic Syndrome Mimicking Idiopathic Thrombocytopenic Purpura こちら。

図3 血小板増多を伴うMDS。単核巨核球を多数認める。

図4 MDSで観察された単核の巨核球(中央)。
参考文献
通山薫. 骨髄異形成症候群 (4) 5q-症候群. 日本臨牀 78(増刊号3): 395-399, 2020.

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