高校時代、書道に初めて触れた。
芸術科目を選択する際に、美術を希望した。しかし希望者が多く、くじで書道に回された。その際に書道の先生から、初めて教えられたのが隷書(れいしょ)であり、篆刻(てんこく)であった。
これまで学んできた楷書、草書といった書体とは違い、面白いと思った書体が隷書である。
百聞は一見にしかず、動画はこちら。
最初に
習字と書道の違い
この2つは言葉の定義が異なる。
習字:文字通りに「字を習うこと」を指し、字の正しい書き順や美しい字の書き方を習う。
書道:字を通した自己表現が最大の目的。文字が生み出す美しさを追求することが書道の定義・目的である。紙と筆を利用して自分の芸術的概念を表現することを目的にしており、絵画や陶芸と同じカテゴリーといえる。つまり芸術である。
隷書について 参考 書道入門
実は日常的に隷書を目にすることは多い。例えば、日本の紙幣に書かれている「日本銀行券」や「壱万円」といった文字は隷書で書かれている(上写真)。
紙幣と隷書 紙幣と官報 こちら
紙幣における伝統書体の研究 こちら
隷書とは、篆書に次いで二番目に古代中国で正書となった書体である。それまで標準書体とされていた小篆(篆書の一種で始皇帝が統一)は画数が多く、書くのがとても大変でした。そこで、小篆を簡素化して直線的に構成したことで生まれたのがこの隷書です。隷書は漢の時代になると最盛期を迎えました。
隷書というと一般的には楷書に最も近い八分隷(はっぷん・はつぷんれい)を指す。このほかにも篆書から隷書に移る過程で使われた古隷(これい)や草書のもととなった草隷(そうれい)などがあり、同じ隷書でも書体や雰囲気は異なる。
隷書の特徴
隷書の中でも、書道で最もよく見られる八分隷の特徴を述べる。
1. 字形が扁平で角張っている
見たままに字が平べったい。これは、記録媒体に木簡や竹筒を使用していたためだと考えられている。隷書は点画を角張らせて書く。この書き方を方筆(ほうひつ)と呼ぶ。
2. 始筆が逆筆、蔵鋒で筆の運びは中鋒
書き始めで逆筆と蔵鋒の形をとり、筆の穂先が線の真ん中を通るように筆を動かす。(中鋒)そのため穂先が線の中に隠れ、始筆(起筆)と終筆(収筆)の部分が丸くなる。
逆筆(ぎゃくひつ) 起筆における筆の入り方の一種で、進行方向とは反対の方向に筆を入れ、進行方向に対して穂先を押していくように軸をやや反対に傾ける気持ちで書くこと。 こちら
蔵鋒(ぞうほう) 起筆の技法の一種で、穂先を逆の方向から入れて線の内側に包み込むようにして書く。 こちら
中鋒(ちゅうほう) 線の真ん中を筆の穂先が通る書法のこと。動画
3. 運筆は始筆(起筆)、送筆、終筆(収筆)とも一定の速さで書く
一定の速さで書くことで線に強弱がなくなる。
4. 横画は水平で縦画が垂直、原則左右対称
横画は楷書のように右上がりにならない。基本的に水平で、まれにドーム状に膨らんでいるものもありる。また、横画や縦画が連なっているときは、線と線の間は等間隔である。線の両端から字の中心線までの長さが同じである。
5. 左右のはらいが波立つ、波磔(はたく)がある
波磔とは、波のようにうねって見える線のこと。こちら。
横画の終筆部分や、左右のはらいの部分が三角形状になっている。これを波磔と呼ぶ。原則として一字の中で一つの画でしか波磔は書かない。
6. 転折は別画として書く
口の二画目や見の二画目のような折れの部分を楷書では一画で書くが、隷書では別々の画として書く。(筆を紙から離すかどうかは不明)。
その他の、隷書は一目見ただけでも隷書だと分かるような特徴を持っている。様々な古典を読んでみて、その隷書がその時代ごとにに特徴がある。
秦隷……篆書を簡潔に表したもの。ほぼ篆書
古隷……波磔が小さいか見られない。篆書の早書きから生まれたもので、篆書に近い形
草隷……八分隷を崩したもの。さらに崩すと章草(しょうそう)になる
隷書を書く時のポイント
ポイントは、隷書の一番の見どころである波磔(はたく)、つまり波のようにうねって見える線を描くことである。
書き方は右払いとほぼ同じ。右払いと異なる点は、払った部分が右上がりになるという点である。終筆部分が三角形になるよう意識すると書きやすい。横画の場合は横画の部分より上に出ないようにする。
はらいでは楷書や行書と同じように払うのではなく、終筆の部分で軽くとめる(戻す)つもりで書いて丸みを持たせる。
波磔が難しい場合は、一枚の紙の上に波磔の入った画を繰り返し書くことである。波磔が書けるだけで隷書らしさがでてくる。以下、代表的な隷書を挙げる。
臨書におすすめの古典
「曹全碑」(そうぜんひ) 筆者不明 八分隷 こちら pdf 動画
「礼器碑」(れいきのひ) 筆者不明 八分隷 こちら (動画あり) pdf
「乙瑛碑」(いつえいひ) 筆者不明 八分隷 こちら 文化遺産オンライン こちら
参考
冒頭の写真は沖縄復帰50周年特別展で見た着物。こちら
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